多くの企業がイノベーションを起こさなければ、自社に将来は無いと考えています。
このことに大きな異論はありません、大々的に賛同です。
ただ、現業だけに頑張っている社員に、勢い「アイディアを出せ!それが仕事だ!」と言うのは無理があります。
バイアスだらけの日常を過ごしている私たちがアイディアを想像するには、正しい知識とトレーニングが必要です。
どうか、準備運動の時間と場を、用意してあげてほしいと思います。
そして、とても重要なのは経営陣自体が「イノベーションとは」を理解し、自社がどのようなイノベーションを起こすべきなのかを想像できることです。
イノベーション・アイディアを創出しようとする際に「社会課題を解決する」というテーマから入ることが多くあります。
それは良いスジだと私は思います。
ただ、多くのイノベーション・コンテストの審査員や、企業のアドバイザーをしてきた中で見受ける、陥り易い「罠」もあります。
それにはいくつかのパターンがありますので、その罠についてお話ししたいと思います。
1)イノベーションにおける経営の罠
ゼロからイチを作るのが簡単なのか、ヒトのアイディアを盗むのが簡単なのか。
当然、後者の方が簡単でしょう。
盗まないで「真似」する輩も出てきますが、これは失敗することが多い。
真似するというのは、いわゆる二番煎じと言われたりします。
場合によっては先行企業から訴えられたりすることもあるかもしれない。
これはいただけません。
ここで言う「盗む」というのは、ビジネスモデルにまで分析し、更にそのエッセンスを自社でやろうとしていることにインストールすることなのです。
さて、どの領域を攻めるかの問題です。
よくある失敗例は自社がマーケットをリードしている領域・製品でイノベーションを起こそうとすることです。
意外に思うかもしれませんが、自社の一番得意なところでイノベーションを創出し続けるのは得策ではありません。
ご存じの方も多いと思いますが「イノベーションのジレンマ」。
著者のクリステンセンは「最良顧客の意見に耳を傾けるな」と表現しています。
自社のラインナップの中でも、業界では鳴かず飛ばずの位置付けになっている製品・サービスにイノベーションを起こすべきだと。
凄く簡単に言うと、業界トップを走っていないならば「ボリュームゾーン」向けに特化した施策が打てるということ。
また、自社ビジネスの中で弱い部分を単純に売却してしまえという企業は多いですが、これも愚行かもしれません。
弱点事業は二束三文でしか売却できないだろうし、自らイノベーションの芽を摘んでいるかもしれない。
イノベーションにおける経営の罠にはまらないでください。
まずはイノベーションの可能性がないかどうかを徹底的に探ってみてはいかがでしょう。
2)社会課題の罠
「コミュニティ」で課題を解決するというアイディアを大変よく見受けます。
環境課題や社会課題にチャレンジする場合、課題が大きすぎて何処から手を付けて良いのか皆目見当が付かないという事態にしばしば遭遇します。
「もっとみんなで助け合わなければ」
「助けてあげられる糸口を探してあげられる」
「一人で悩むと乗り越えられないことも、みんなと一緒なら乗り越えられる」
等々、人々が「コミュニティ」に期待するものは大きい。
例えば、児童虐待や母子家庭(に由来する極度の貧困)、ヤングケアラー問題など、相談窓口として「コミュニティ」があると勇気づけられるというのが殆どのシナリオです。
ちなみに、コミュニティというビジネスモデルはオリヴァー・ガスマン著「ビジネスモデル・ナビゲーター」によるとTwitterやInstagramのビジネスに代表される「メディアパワー」を発揮してビジネスとして成立させているものを指します。
従って社会課題の解決の為にコミュニティを作るのは良いとして、メディアパワーをいかに発揮するのかを見当しなければならなりません。
ボランティアの集合体をSNSのようなもので集めるというより、SNSそのものを創出するということです。
例えばtwitterでは(全角)140文字以内でメッセージを伝える、Instagramでは写真をメインにメッセージを伝えるといったメディアとしての特徴があります。
ボランティア集団を構築するビジネスモデルとしての「コミュニティ」を構築するのは難しいと言わざるを得ません。
なのに「コミュニティ」で課題を解決するというシナリオを描いてしまう。
更に、コミュニティを活発化するために「イベントを企画します」と添えたりする。
イベントの中身は尋ねる必要も無いでしょう、
何故なら「イベントに参加してくれる人々は課題に苦しんでいない」ということに気付いていないからです。
イベントに出てこない(自分は該当ではないと思っている)、または有益な情報にアクセス出来ないから「社会課題に苦しむ」のです。
コミュニティやイベントというアイディアが出てきたら、かなりの確率で「社会課題の罠」にかかったと見たほうが良いでしょう。
3)当てずっぽうの罠
助成金・補助金」ビジネスのアイディア。
社会課題を解決するビジネスアイディアとして「コミュニティ」の次くらいに多いのがコレです。
「助成金・補助金」ビジネスなんてものは存在しません。
例えば、1万歩譲って「助成金・補助金」を貰う為のコンサルティングをしてそれを生業にする。
それはビジネスと言って良いでしょうが、社会課題解決に繋がるとは思えません。
さて次に、助成金・補助金をアテにするのはビジネスでは無いと言うと、次に出てくるアイディアに「投げ銭」というビジネスモデルがあります。
ちなみに「投げ銭」は、先述の「ビジネスモデル・ナビゲーター」にも掲載されています。
代表的な事例が「Show Room」です。
熱狂的なファンがベースにあり(それなりの規模が必要)、そのファンを喜ばせて寄付にも似た投げ銭を戴くもの。
ちなみに「Show Room」はメディアですが、投げ銭は出演者に向けられるもので、その手数料収入が「投げ銭」ビジネスです。
つまりメディアパワーを持っていなければなりません。
メディアパワーは如何にして開発するのかがキーになるが、提案した人々がよく口にするのが「ニッチで良いのです」。
これはビジネスになりません。
きちんととビジネスモデルの名前と意味を理解してほしいと思います。
更にこのパターンで次に出てくるのが「クラウドファンディング」です。
確かにビジネスモデルですが、クラウドファンディングは目利きの力を活用して投資家を募るのが仕事であり、社会課題を解決するビジネスとは関係はありません。
要するに実力で儲けることが出来ないので「お金をタダで貰えそう」なものに行き当たりばったりで辿り着いているのです。
イノベーションの創出は偶然性は低くないですが、こうなると「当てずっぽう」でしかありません。
4)アフェリエイトの罠
「アフィリエイト」は、露出(PVと考えて良い)が多いメディアが利用するビジネスモデルです。
インターネット広告手法のひとつで「成果報酬型広告」と言われています。
広告出稿サイドは、売上高が上がらなければ広告料を支払わなくても良く、無駄の無い広告手法です。
では、それの何が罠なのでしょう。
収益を得るために、アフィリエイトのビジネスモデルを使うと言う人々がいます。
更にPVが足りない場合には、インフルエンサーなどを雇って宣伝して貰うと言うのです。
正直、何をしているのか全然わからない。
そもそも自分達のメディアにそこそこのパワーがあることが前提条件のビジネスモデルだからです。
広告料を手にするビジネスモデルルなのに、露出が少ないからと言って広告を出すというのは頓珍漢でしょう。
ビジネスモデルは、キチンと調べて十分に考えた上で活用を考えてほしい。
この罠にはまったら「勉強してから出直し」です。
5)最後に
私は「ヒトのアイディアを盗め」とよくお話ししています。
しかし、いきなり「盗め」と言われてもと思われる方も多いでしょう。
大丈夫、盗むために経営学的に分析されているビジネスモデルが活用できます。
ただし、勉強も研究もしないで何となく導入したいというのは無理な話なのです。
冒頭にお話ししましたが、社員に準備運動の時間と場を、用意してあげてください。
理解もしないで適当に当てはめればいい、これも大変陥りがちな罠です。
イノベーションは、発明や新発見とは違います。
何かと何かを結合させる、「知」と「知」の新結合から新たなビジネスを生み出そうというのがイノベーションの基本です。
そして新結合によって新たに生まれ出るものの本質は「価値」であり、新たな価値提案ができるからビジネスが成立するのです。
タッチコアは、イノベーション創造(アイディア創出)に資する、講座・サポートを提供しています。