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File10:「情報」という経営資源の活用方法ー組織変革

30年以上前から「ヒト」「モノ」「カネ」という3大経営資源に「情報」を加え、4大経営資源として捉えるべきと言われてきました。

この、この4つ目の経営資源は他3つの資源と大きな違いがあります。
それは「使っても使っても摩耗しない」ということです。
そのためか、どう使うべきか理解しづらいとも言われます。
また「情報」は情報システム(狭義にコンピュータシステム)が密接に絡んでくる為に取り扱いが難しいとも。
さて、よく似た言葉で資産という言葉がありますが、どのような違いがあるとお考えになりますか?
資源は「形を変えて」利活用するものです。
例えば、燃料(石油、ガスなど)、鉄や銅、レアアースなどの鉱物も「資源」と表されます。
燃料は燃焼させるなどしてエネルギーを取り出して動力にしたり、物質を溶融したりして「別の形にして」使います。
一方、資産は「持っているだけ」で経済価値を生み出す性質があります。
代表的なものでは「不動産」「金融資産(有価証券や預貯金)」などがあるでしょう。
これらを考えると、経営資源は使い方の巧拙により取り出せる結果も大きく変わることが想像できます。
「ヒト」「モノ」「カネ」は使用すれば摩耗するので、利用方法に細心の注意を払いますよね。
例えば「ヒト」について言うと、最近は、Well-beingなど働き方そのものを見直し・考え直すことが必要だと言う企業が多くなっています。
ところが「情報」は摩耗はしないし、直接的な働きかけが見えにくいこともあり使い方が稚拙になることが多いのです。
「情報」で何が出来るのかを考えてみたいと思います。

1)情報は組織の壁を作る

意識するかしないかは別として、情報という経営資源はツールとして実は昔から「それなりに」使われてきました。
「それなりに」使ってしまうと、大変な失敗をすることもあります。
日本で有名なところでは、第二次世界大戦でしょう。
野中郁次郎氏は「失敗の本質」という書籍で、日本は第二次大戦で何故負けたのかについて史実に基づき語っています。
これらの書籍等から読みとれるように「海軍(省)」「陸軍(省)」「外務省」それぞれが仲悪く、情報の共有が殆ど行われなかったことに起因しているように見えます。
陸軍は海軍の作戦に大きく影響を与えるような情報を掴んだとしても「教えない」し、その逆も。
手柄を独り占めされたくないなどに起因する「妬み」「嫉み」「僻み」のような感情が「組織の壁」をより高くし、国家レベルの大きな目標達成など考えられない状況があったのでしょう。
念のため申し添えますが、ここでは当該大戦の善悪ではなく情報の使い方についての例として取り上げています。
2)情報の流れと組織

昔は若者だったおじ様達が集合するとよく交わされる会話があります。
「俺たちが若い頃は、先輩や上司が飲みに行こうと誘ったら、はい、喜んで!と言うのが当たり前だったのにな」
先輩や上司に何故ついて行かなければならなかったのでしょうか?
実は、この現象の原因も「情報」にあります。
その当時、上司や先輩は「仕事をする(若しくは会社で生活する)際に役立つ情報」を持っていました。
しいて言えばそのような情報を教えてくれるから、大事に慮らなければならなかった部分も大きいでしょう。
明文化されておらず、しかも公開する手立てが無かった時代の話です。
今は、おおよその情報は社内イントラに掲載されているし、何ならネット検索で更なる情報も入手可能だったりします。
わざわざ時間外に頑張ってまで飲みに行かなくても問題無くなった訳ですね。
経営者は「社内の最高レベルの情報を手にする」ので、それに準ずる上級管理職者は経営者にゴマすりをしてでもその情報を教えて貰おうとしました。
そして上級管理職者が上手に経営者から情報を手にしたら、下位の管理職者は上級管理職者からそれを得ようとします。
このようにして「派閥」なるものが出来上がっていくのでしょう。
大小の違いはあっても陸軍、海軍の話と大きく変わらないのかもしれません。
「情報」を操作することで組織(公式、非公式に関わらず)を形成してきたのです。
経営を立て直したいとか、従業員が辞めないような組織運営をしたいと考えるならば、この「情報」を如何に扱うかをしっかりと考えていただきたいと思います。
3)情報を活用し成果を得た事例:陣屋

「情報」を公開することで成果を得た事例をお話ししたいと思います。
まずは、神奈川県鶴巻温泉の「陣屋」という旅館が経営改革をした話です。
旅館は、当然のことながら「フロント」にお客さまの情報が集中します。
フロントから調理場であったり、仲居さんのところだったりに情報が分配されるという仕組みです。
つまりフロントは、情報が集中する司令塔になっていました。
しかし、フロントと同じ情報がそれぞれの現場に普通に存在すれば、フロント中心に組織を回す必要はなくなります。
陣屋はどの組織(担当)にも同じ情報が伝達・閲覧されるように情報の流れを変えました。
これは「やる気」を生み出すことが目的でした。
また、陣屋の女将は、旅館の経営状態も可能な限り従業員に見せたそうです。
自分達は、どのくらい窮地に立っているのかのありのままの姿を見せたというのです。
「創業家が何とかするのでは?」「名門旅館が潰れる訳ない」そんな従業員の「甘え」を拭い去るのが目的でした。
情報を水平に存在させることで、自主的に動く組織が出来上がったと言う訳です。
4)「情報」を活用し成果を得た事例:めがね21

全員で経営を意識するという取組みは、他にもあります。
広島市に本部がある「めがね21」。
彼らは「丸見え経営」という言い方をしています。
私は、現地に行ったこともありますし、創業者にインタビューをしたこともあります。
ここの社員は、実に生き生きと働いていました。
「めがね21」は何処まで情報を公開しているのでしょうか? 
例えば、社長を含めて全従業員の給与を社内Webで公開していました。
また、各店舗の諸問題、例えば「エアコンが壊れたので修理したい」というようなコトも全て社内掲示板を通して共有されます。
そうすると「この電気屋さんで見積りをとったらどうか?以前に修理して貰ったら安かったよ」というように、他店から情報が寄せられるのです。
以前、めがね21の社長にインタビューに伺った際、社長から「夜ご飯を一緒に食べに行こう」とお誘いいただきました。
その時もこんな風な話をされました。
「小西君と今夜お食事に行ってご馳走しても良いか?と社内掲示板に書き込んで反対意見が無かったのでご馳走しますよ」
また、めがね21には管理職という制度がありません。
社内掲示板を通じて組織は完全にフラットであり、意志決定は全員で行います。
そのため、管理職のような役目を作る必要も、階層式組織構造は必要ないのです。
ちなみに「社長」は存在します。
社長の役割は「何か会社に問題が有った場合に代表として処罰を受けたりクビになる役割だけを担っている」だと言うのです。
社員は会社員でもありますが、事実上「経営者」の一人として処遇され経営に意見することも出来ます。
このような制度(社員は全員経営者)も大事だが、それを確かにしているのが「情報」の公開なのです。
5)情報という資源を最大化するための経営の役割

「失敗の本質」でも見るように「情報を隠す」ことで組織には残念な結果が生まれます。
陣屋やめがね21の事例では、情報をオープンにしフラットな組織作りに成功し経営を安定させました。
情報は階層をもって管理するの、水平に公開しつつ管理するのか。
どちらが良いかは「子どもでも分かる」話ではないでしょうか。
それでも、階層に拘り、必要な情報を共有しない企業・組織が多いのは何故なのでしょう?
コンプライアンスとか、ガバナンスがと仰る経営者もいらっしゃいます。
勿論、それは重要です。
しかし、守るべき情報・統治すべき情報の判別と管理が出来てない場合が多く見受けられます。
それに最も重要なのは、公開する意味、そしてどう情報を扱うべきなのかを従業員全員に理解させ続けることです。
公開したらそのままではなく、常に常にその意味を共有し続けなければなりません。
この手間を惜しんでしまえば、コンプライアンス違反が発生したりガバナスが効かない組織になっていくでしょう。
そういう意味では「情報」という資源も、摩耗し、良くない方向に働くと言えます。
そうならなければ、自主的に動く組織が出来上がり、社員が自覚をもって生き生きと働ける会社として存続できるのではと私は考えています。
「情報」という資源の使い方は多方面ありますが、今回お話ししたような活用の仕方をお勧めしたいと思っています。
経営には、「ヒト」「モノ」「カネ」そして「情報」という経営資源を、上手に分配・活用していく重要な役割があるのです。

タッチコアは、情報という経営資源を活用した組織変革のサポートをしています。