最近「BA養成講座」なるものが世の中に出現し始めたことにお気付きでしょう。
「ビジネスアーキテクト」の存在にスポットライトが当たったのは昨年末に経産省・IPAがデジタルスキル標準を発表したことに端を発しています。
デジタルスキル標準の中に「DXスキル標準」を定め、ここではDX推進に掛かる人材類型の定義をしています。
この人材類型の中に殆どの日本企業が意識していなかった「ビジネスアーキテクト」が真っ先に定義されているのです。
昨年末の発表資料からそのまま引用すると以下通りです。
「DXの取組みにおいて、ビジネスや業務の変革を通じて実現したいこと(=目的)を設定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する人材」
ビジネスアーキテクトについて、経産省やIPAは、有識者を委員として委嘱してスキル標準の検討議論をするといいます。
ちなみに、主査を入れて6名のうち、学者1名、コンサル1名、ベンダー2名、ユーザー2名という顔ぶれです。
今回はベンダー主導という訳でもなさそうで少し期待できるかもしれないと思っています。
皆さまが良くご存知のDXレポート(やDXレポート2)は、「ベンダーのベンダーによるベンダーのためのレポート」でした。
当該レポート作成のワーキングに参加したのは殆どがITベンダーだったので、当然と言えば当然かもしれません。
残念なことにビジネスアーキテクト不在と言われるのは先進国では日本だけで、米中を筆頭に先進各国では長年にわたって養成されてきました。
「こんなにDX関連の施策を展開しているのに、何故、海外のような好例が生まれてこないのか?」
経産省・IPAでは少し前からこんな話が呟かれていたそうです。
原因のひとつは、経産省が完全にミスリードして「システム導入」イコール「デジタル化」イコール「デジタルトランスフォーメーション」と公表(定義)してしまったことです。
デジタルというのだから「ITベンダー主導の話題」だと勘違いしていたのです。
上手にDXの好例を生み出している日本以外で、ビジネスアーキテクトといわれる職種の方々が活躍しているのを見て、経産省・IPAは慌ててビジネスアーキテクトの育成と必要性の打ち出しに乗り出したというところでしょうか。
ちなみに、当社はというと、2年以上前からビジネスアーキテクト養成講座を個社向けに提供してきました。
今回は、経産省・IPAのデジタルスキル標準をなぞりつつビジネスアーキテクトについて話をしてみたいと思います。
1)ビジネスアーキテクトの役割(期待とスキル)
経産省が発表したDX推進スキルのビジネスアーキテクトについてどのような記述があるか見てみました。
人材類型を定義した理由に以下のような記述があります。
「DXを推進する人材として、データやデジタル技術に関する専門的な知識・スキルを持つ人材が想起されがちである。そのような人材は当然重要だが、データやデジタル技術の活用の先にある、ビジネスそのものの変革の実現をリードする人材が必要であると考え、本類型を定義することにした。」
「いの一番」にテクノロジ中心の考えではDXは起きないと言っています。
これは割と良い方向に修正されたように思っています。
さて、資料によるとビジネスアーキテクトには3つのロールが定義されています。
①既存事業の高度化
②新規事業開発
③社内業務の高度化、効率化
そして、それぞれのロールに対してビジネスアーキテクトのスキル項目について重要度(a~c)を示しています。
①と②はスキル項目が殆ど同じです。
「戦略・マネジメント・システム」に分類される6つのスキル項目は殆どが「a:高い実践力と専門性が必要」。
例えば「変革マネジメント」とは、組織や人々の気持ちを変革させるためにマネジメントとしてすべきコトや留意すべきことを学び実行する能力が必要です。
「システムズエンジニアリング」が、システム思考のことを指しているとすると、モノゴトや問題をさまざまなものと関係している”システム”として捉え、どこにレバレッジポイントがあり、どこのスイッチを捻るのが一番効果的かを考える能力が必要だということです。
「エンタープライズアーキテクチャ」は、一義的にビジネスアーキテクチャーのフレームワークを使いこなせるようになる能力を指すと考えて良いでしょう。もちろん「a」と定義されています。
「ビジネスモデル・プロセス」に分類される6項目のスキルも殆どが「a」です。
「ビジネス調査」、「ビジネスモデル設計」、「ビジネスアナリシス」などなどが「a」と定義付けされています。
ちなみに、ロールの③ですが、社内業務の高度化、効率化については「a」と示されているのは、「ビジネス戦略策定・実行」のみです。
他は殆どが「c:説明可能なレベルの理解が必要」となっています。
現業を機械化(システム導入)して効率化するのにスキルは殆ど必要ないという説明に他なりません。
「ビジネスアーキテクト」という人材・ロール(&スキル)が不在では本当のDXは起きないと認めたということではないでしょうか。
2)ビジネスアーキテクト必要性(不在の問題)
「それで、何故ビジネスアーキテクトが必要なんだっけ?」
そんな声が聞こえてきそうなので、必要性について敢えて触れておきましょう。
現在のビジネスはますます複雑化しており、異なる部門、システム、プロセスが絡み合っています。
皆さまの会社でも以下のような事象が起こっていませんが?
・経営者の意図やビジネス戦略が現場に伝わらず、変革が進まない
・ビジネス環境を全体的に見ることができず情報システムも個別最適で終わってしまう
・スコープの逸脱によりプロジェクトの期間や予算が大幅にブレてしまう
・部門間やステークホルダー間の連携がうまくいかず対立や誤解を生んでしまう
個々部門のプロセス改善や、システム最適化では到底解決できない事象だということはご理解いただけるでしょう。
この複雑性に対応するためにビジネスアーキテクトという役割が必要なのです。
3)ビジネスアーキテクトはITユーザー企業にこそ必要
ITベンダー企業は必死にビジネスアーキテクトを育てようとしているようです。
しかし、この役割は、どう考えてもITユーザーが担うべきだと私は思っています。
ITユーザーが人材育成しにくい領域をITベンダーが補完すること自体は否定しません。
ただ、ITベンダーが「しゃかりきに乗り出す」とそのものの定義を有耶無耶にし、違う意味にしてしまうことが往々にしてあるので注意が必要です。
ITベンダーにはビジネスアーキテクトは必要ないし、先述の役割から考えるとそれを担うことは事実上無理です。
また、ITベンダーは、ビジネスアーキテクトを養成することが出来るのでしょうか?
・ビジネスの構造分析出来るのか?
・課題の根本的解析できるのか?
・現状分析しないで論路的に業務手順設計できるのか?
それらしい用語を使いまわして「BAモドキ」を養成するために、研修やITツールでお金儲けを企んでいる企業を見るのは、傍目から見ていて苦しい限りです。
それでは、DXはITベンダー主導では為し得ないということでしょうか?
そうなのです、DXの好例と言うのは「ラジカル・イノベーション」です。
ラジカル・イノベーションとは、世の中に急進的な変化をもたらすイノベーション(=新結合)です。
これは、ITベンダーがもたらすのか、ITユーザーがもたらすのか、少し考えてみていただければと思います。
今現在のところまで、ITベンダーは、あくまで「道具」を提供することが仕事であり、それをどのようにITユーザーが使うかには責任を持ってはくれません、
道具(=ITやデータ)を如何に使うのかは、ユーザーのユーザーによるユーザーのための施策なのです。
顧客や、社会の動向を見て、自社は如何にビジネスを変革していくべきなのかを経営戦略(ビジネス戦略)で定めることが先決なのです。
ITベンダー発のDXなど有り得ないと言うことを理解していただけるでしょうか。
繰り返しになりますが、ビジネスアーキテクトはITユーザー企業にこそ必要なのです。
育成には今すぐ、取り組んでいただくことをお勧めします。
タッチコアは、ビジネスアーキテクト養成講座を2年前から提供していると冒頭お話しました。
カリキュラムは本当に必要なスキルにポイントを合わせた構成です。
[参考資料]
DXスキル標準(DSS-P)概要(IPA)
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about_dss-p.html