TouchCore Blog | イノベーション:イノベーションが生まれない深刻な現実 [File:13]
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イノベーション:イノベーションが生まれない深刻な現実 [File:13]

DX、イノベーション創出の必要性が日本でも意識されてから数年が経ちます。
企業は様々な施策や投資を行っていますが、「組織が変化した気がしない」「何も変わらない」という声があちらこちらで聞かれます。
まずは、現実に何が起こっているのかということ、そして解決のための推奨事項
までお話ししたいと思います。
意外にも、当たり前と思うようなことがイノベーションが生まれない原因になっていることに気づいていただけるのではないでしょうか。

■出来そうなことを考える:ソリューション主義
「出来そうなことを考える」ことでイノベーションのアイディア創出を阻害しているという事例があります。
ここ数年間に渡り、全国津々浦々でイノベーション・コンテスト(名称は様々)が開催されています。
私は、いくつものコンテストの審査員を務めさせていただいますが、本当に多いのはこの「出来そうなことを考える」というものです。
正直、そろそろお腹いっぱいになりそうなのでお話ししておきたいと思います。
「出来そうなことを探す」行為は言い換えれば「ソリューション主義」と言えるでしょう。
イノベーションはソリューションでは決してありません。
ソリューションは「使い方」を考えてしまうものなのです。
そうして、誰しもが考えつくようなアイディアに収束してしまいます。
例えば「食糧廃棄を削減する」という課題に取り組もうとした時「リモート」「小型カメラ」に注目してしまったとしましょう。
すると「冷蔵庫に小型カメラを取り付けてリモートで確認し買いすぎを防ぐ」というような、先に出来そうなコトに道筋をつけてから逆算したようなアイディアしか出てこないのです。
ちなみに、当社は経営コンサルティングを提供していますが「ソリューション提供」を潔しとしていません。
何故ならば、何をどうするかを決定して実行するのは「お客さま」だからです。
当たり前のこと言っていると思われるかもしれませんが、ソリューションを提供してしまうと使い方に夢中になり途端に創造することを止めてしまう人がとても多いのです。


■組織だけ作る:マネジメントの姿勢
直近数年、DX推進部門やイノベーション推進部といった組織を設置する企業が多くなっています。
イノベーションが生まれない深刻な現実を作り出しているひとつに、
これらの組織から何も創出されない状況が続いているのにも関わらず、方向修正をしないマネジメントの姿勢があります。
「自由に様々な発想を阻害してはならないので、マネジメントからあれこれと指示すべきでは無いと考えています」
そう胸を張って話すマネジメントの姿を、何社も見てきました。
一方で、こんなマネジメントも在ります。
「3年以内に10億円規模のビジネスを創出するように指示をしています」
皆さんの直感として、マネジメントの姿勢としてどちらが正しいと思われるでしょうか?
私には、どちらも間違っているように見えます。
自由でもなく、財務目標を提示するのも間違っているのなら、どうすべきかと疑問に思われるでしょう。
「数多の失敗から成功が一つ生まれるかどうか」。
DX(新規事業開発)やイノベーションなどの新たにコトを創出する仕事は、伸るか反るかという側面もあり通常のマネジメントでは上手くいかないことが世界中で知られています。
とある企業のDX部門の方々とお話をした時に、こんな話をお聞きしました。
「私たちは、各社が具体的に何をなさっているのかについて情報収集しています」
情報収集して何をなさるおつもりかと私は尋ねました。
「当社は失敗が許されないので」
失敗している他社の知見を学び取り、自社は失敗しないようにしているということでしょうか。
世の中は、そんなに甘くありません。
「トライアンドエラー」を繰り返し学習し、少しずつ成功に導くのが、新たにコトを創出する仕事の王道です。
自分で失敗して自分で学ぶ以上の学習成果はありません。
マネジメントは「失敗すること」を奨励し、失敗から「何を学ぶのか」を少々具体的に定義してやるくらいが丁度良いでしょう。
失敗から学ぶのが正とするならば、失敗をしなければ話が始まらないということになります。
自由なだけでもなく、きっちりとした財務目標で縛るのでもなく、失敗から学べる環境を作るというマネジメントが必要になるということです。
例えば、私がマネジメントならばチームに対して「失敗をしろ」と指示を出すでしょう。
具体的には、
「1か月に3つ以上の失敗を報告しなさい」
「失敗したら引き換えに何を学習したのかを報告しなさい」
チームに於ける禁忌事項は「失敗しないこと」であり「失敗事例が報告出来ないこと」が最悪だとマネジメントが理解させてあげなければいけません。
組織だけ設置するのではなく、マネジメントも方向修正が必要なのです。


■アンバランス:イノベ組織と非イノベ組織
イノベーションが生まれない深刻な現実を作り出しているひとつに、イノベ組織と非イノベ組織のアンバランスな状況があります。
イノベ組織に対してマネジメントが方向を変えても、会社全体からするとアンバランスな状況が生まれて上手くいかないことがあります。
実は、世界中の企業や組織でこのアンバランスが発生してイノベーションを阻害しています。
これは凄く簡単に言うと「イノベーション組織は他から見ると遊んでいるように映る」という状況です。
非イノベーション組織は「額に汗して、血が滲む想いをして」利益を捻り出しているのは周知の事実です。
そんな思いをしてようやく生み出した「利益」をイノベーション組織は、やすやすと「無駄遣い」をしているように見えて苦々しい思いを抱いてしまいます。
本当は、多くの学習をしているのですが、無駄遣いと映るのは致し方ないのかもしれません。
どの企業でも表面上は「仲良くしているように見える」のですが、イノベ組織が、非イノベ組織に「借り物」をする時などに問題が顕著にあらわれます。
非イノベ組織は、本番系の資源を多く持っていますが、イノベ組織は、殆どの場合「プロトタイピング系」の資源しか持ちません。
精度の高い開発が必要な場合は、本番系をお借りするしかないでしょう。
そんな時に積極的な協力が得られないという事態が発生します。
更に具合の悪いことに経営者は、マスコミなどにイノベ組織の躍進を宣伝したりするもので、余計に”いけず”な対応をされてしまうというものです。
しかし、このベクトルが全く違うイノベーション組織と非イノベーション組織の両方を上手にマネジメントする必要があります。
それが出来てこそ、素晴らしいイノベーションを創出することができるのです。
早稲田大学大学院の入山教授は、このベクトルの違う2つの組織を「両利きの経営」と呼んで別々の方向性でマネジメントすることを推奨されています。
また、一般社団法人 Japan Innovation Networkでは、二階建ての経営と呼び、同様に別々のマネジメントを実施することを推奨しています。
更に米Gartnerでも「バイモーダル」と呼んで推奨しています。
このように多くの知見が存在しているということは、世界中でイノベーション組織と非イノベーション組織の両立に苦戦しているということが見て取れるし、難しい問題でもあるということです。
「マネジメントの方法が違う」を端的に表すと、非イノベーション組織は「知の深化」をするところだと入山先生は説き、Gartnerの最上級アナリストのDave Aron氏は「知を搾り取る」のだと言っています。
そして、イノベーション組織は、入山先生の訳でもAron氏も”explore”で「探索する」としています。
探し求めることが中心的なミッションであり「搾り取る」ことではないということです。
ミッションの違いが益々両組織の確執を生んでしまう訳ですが、少しでも軽減する為に弊社では以下のことを推奨しています。
(1)非イノベ組織の人材とイノベ組織の人材の必要とされる「能力の価値」に違いはないことをマネジメントが理解をして社内に
知らしめる。
(2)非イノベ組織とイノベ組織との間で敢えて人事異動を発生させる。
(3)非イノベ組織とイノベ組織の共同研究会を公式イベントとして実施する。

簡単ではないですが、これをやり遂げれば秀逸なマネジメントを実現出来るのだと信じていただきたいのです。
そういえば、このようなご質問をいただくことがあります。
「イノベ組織に適合する人材は、何処にでもいる訳ではないですよね」
答えは「Yes」です。
ただ「隠れイノベ人材」とでも言うべき方々も企業内には存在していたりします、一般的な行動様式だけで判断しないように留意してください。
だからこそ、上記の(2)で実際に異動させてみてイノベ人材かどうかを注意深く見抜くのです。
それから上記推奨事項の実施については、間違ってもイノベ組織に指示をしてやらせてはいけません。
これをやって大失敗したクライアントを見たことがあります。


■バイアス:学ぶべきを学んでいない

イノベーションが生まれない深刻な現実のひとつに、正しいアイディア創出方法を学んでいないという状況があります。
一人の天才が卓越したイノベーションのアイディアを生み出す可能性はゼロではありません。
しかし、この天才が自社から生まれてくるのを待つという施策は「愚の骨頂」でしょう。
一人の天才が生み出すアイディアに期待するよりも、5人程度の多様性の高いグループの方がユニークなコトを発想する可能性が高いのです。
私が、当社の講座(イノベーション創造講座)で徹底的に理解してもらうことのひとつは「多様性の妙」とでも言うべき活動です。
チームでの活動の場合は、一人一人の意見が沢山出てきてそれの組合せが面白いアイディアに発展していきます。
一人だけでは、限界のある発想を複数人で押し広げていく様をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。
一人の限界と言うのは「バイアス」のことです。
人には必ずバイアスが存在しており、そのお陰で発想が縮こまってしまい面白くも何ともないアイディアを生み続けてしまいます。
しかし多様性の高いグループの中に入ると、バイアスの為に一人では見えなかったコトが見えてくるのです。
多様性の高いグループで「バイアスを打ち消し合う」、無影灯のような効果があると言うと分かりやすいでしょうか。
この実践方法として「ブレスト」があげられます。
企業では大学生がインターンで職場に配属されると、かなりの確率で「ブレスト」を実施するといいます。
学生は社会人とは違うバイアスを持っていることを期待してのことでしょう。
ただ、ブレストの正しい実施方法を知らないが為に、折角の時間の無駄遣いしてしまっていないでしょうか?
ブレストは「短時間で多くのアイディアを発想する」目的で実施されます。
従って、実現可能性とか真面目さのようなことは一切問われず、問われるのは「数」です。
その為に「ブレスト4原則」とうものがGlobalでルール化されているのですが、多くの企業では実践されていないように感じます。
私は大学院生に講義を提供していますが、学生が企業にインターンに行くと「ほぼ全員がブレストを体験」したと言います。
しかし、ルールや目的を正しくレクチャーされた学生は「ゼロ」です。
正しいブレスト実施方法を聞いて「こういうことをしたかったのですか」と感心する学生ばかりです。
学生に混ざって貰って面白いアイディアを発想しようという試みは分かりますが、ブレストさえマトモに実施できない状態で何が生み出されるのでしょうか。
「沢山失敗しよう=なんでもかんでもやればいい」では決してないのです。
イノベーション創造以前に、学ばなければならないことは学ばなければなりません。


合同会社タッチコア 代表 小西一有