日本人は順番や順序をとても大事にします。
私は、それは良いことだと思っています。
社会の秩序が保たれるのは勿論ですが、順番通りにモノゴトを進めることで、効率的・効果的に結果を得ることができます。
ところが、何故か順番を間違えてしまうことが多々あります。
中にはわざと順番を間違えよう(させよう)する場合もあるのです。
守るべき順番を間違えてしまうと、本来得られたであろう結果を得ることができません。
それだけでなく、時間と費用だけを浪費してしまうことになります。
順番というのは、料理からビジネスにまで広範に渡り影響があります。
今回は、ビジネスの範囲において、いくつかの順番が間違っているケースから何故順番を間違えるのかについてお話したいと思います。
■順番を間違うー現状が正しいという思い込み
■順番を間違うー目先の利益への囚われ
■順番を間違うー作為的な情報提供
■順番を間違うービジネス戦略策定
■順番を間違えるー理由
■順番を間違うー現状が正しいという思い込み
大学の講義でシステム思考の「氷山モデル」の話をしました。
簡単に説明すると、目に見えているところは「氷山の一角」であり、見えていない水中部分の方が圧倒的に大きいということに注目した考え方です。
目に見えている問題状況を解決しようと「小手先の対策」を考えてはいけません。
私は、ソリューション・セントリックなイノベーションアイディアはスジが悪いと教えています。
それは、目に見える問題状況にフォーカスし過ぎているからです。
問題状況を確認したら、何故それが発生してしまうのかを問わなければなりません。
「問題状況の確認」の次は「原因の追及」であるはずなのに「問題解決」のアイディアを考えてしまうミスが多い。
例えば、スーパーマーケットで生鮮食料品の売れ残りを無くすアイディアを考えるという課題に対して、売れ残りが発生しそうになったら「値引き販売」をするというアイディア。
どんなアイディアかというと「お客さま」に会員になっていただきメールアドレスの取得から始まり、値引き状況をメールでタイムリーにお知らせするというもの。
お店は売れ残りが無くなり、お客さまは安く買うことが出来るので「Win-Win」なのだとか。
正直なところ誰でも出せそうなアイディアですが、そもそも本末転倒なのです。
お店は値引きしても売りたいのでしょうか?
出来れば値引きしたくないのではないでしょうか?
毎日仕入れる生鮮食料品の「その日の需要」は読めないのが当たり前ですが、確からしい需要予測能力は必須です。
では、どうすれば良いのでしょう?
需要予測量よりも少なく供給すれば良いだけで解消です。
商いの順番で言えば「仕入れて」「並べて」「売る」訳だから、売れ残りの原因は「仕入れ」にあります。
仕入れなければ売れ残りは出ません。
順番を考えれば、仕入れ量を削減すれば良いのです。
例えば、閉店が20:00だったとすると17:00か18:00までに完売するように仕入れすれば良いでしょう。
閉店までの2時間は、生鮮食品以外の物はお買い求めいただけます。
最優先順位は「食料品の売れ残り」を無くすことであり、閉店直前まで生鮮食料品を求めるお客さまを逃がさないことではありません。
そう、順番が違うのです。
売れ残りが無い状況を作れば「廃棄料金」「機会損失」などが発生しないので、その分だけ商品価格を低く抑えることもできます。
これこそが「Win-Win」ではないでしょうか。
多くの人は「現状が正しい」に慣らされていて、それを不文律のように捉えて「考える順番を間違う」のです。
ちなみにこの現象は、確証バイアスといってイノベーションアイディア創出の、手ごわい敵です。
■順番を間違うー目先の利益への囚われ
前項の「閉店前に売り切れる数量しか仕入れないことにより、フードロスを出さない」を実践している例があります。
「そのスーパーで新鮮な野菜を買おうとしたら何時に行けば良いのですか?」
このスーパーマーケットでは、朝9:00にシャッターを開けると、既に行列が出来ているといいます。
「目玉商品」を求めてくるのでは無く、単純に新鮮なお野菜やお魚を求めて人が集まるのだそうです。
このスーパーでは「新鮮なモノだけお客さまにご提供しています」と言うのが信条になっていて、そのことをお客さまも知っています。
前日の夜には生鮮食料品は「ゼロ」になっているのを知っているので、翌朝に来れば「市場直送」の新鮮なものが確実に買えると行列に並ぶのです。
『昨日の売れ残りを買わされるかもしれない』などと疑う余地もありません。
惣菜売場も、揚げ物や焼き物についてあまり沢山並べておくことはありません。
調理場はオープンキッチンになっていて、例えばトンカツの枚数を注文すると揚げたてを提供してくれます。
作り置きをしていた時代もあったそうですが、揚げたてを提供し始めたら売上が上がったのだといいます。
トンカツは揚げたてのサクサクが美味しいのは誰でもが知っています、可能な限り「揚げたて」が良いということです。
スーパーの店員は大変なのではないかという意見もありそうですが、お客さまに喜んで貰えるということは心底嬉しいのではないでしょうか。
「利益は後から必ず付いてくる」と店長さんが笑っていたのが印象的でした。
本音で言えば、一に利益、二に利益、三四が無くて五にお客さま…などどいう会社やお店が多い中、お客さまの笑顔が第一だと経営も従業員もクチを揃えて言うのが、そのスーパーなのです。
『順番』は利益が第一ではありません。
目先の利益に囚われてしまい、順番を間違ってしまうのです。
■順番を間違うー作為的な情報提供
IT投資を検討する時に、要件を決める前に何故か「サーバー機器の構成」や「ネットワーク機器の構成」が最初に決まっていることはないですか?
もっと頻繁に出現する現象としては「導入するパッケージソフトウェア」の名前やメーカーが最初に決まっていたりしないですか?
順番が違います。
最初に決めるのは、IT導入の目的です。
ド新規にIT導入をする場合もあるでしょうが、ほとんどは「入替え」ではないでしょうか。
入替えの目的なんて、老朽化対応に決まっていると思った方は間違っています。
「システムが古くなったら新しいのに入替えなければならない」なんて誰が決めたのでしょう。
昔にシステムを導入した頃と現在は環境も何もかも変化してきて、多少の改修では間に合わなくなったので刷新しようというのなら理解できます。
であれば「ビジネス環境の変化」および「システム導入に関するフィージビリティスタディ」などのプロセスを経て機能仕様が明確になり、やっとソフトウェアパッケージの選定などが始まりそれに合致したサーバー環境などの設計に至るはずです。
何故IT投資検討の際の順番を間違えるのか、原因はいくつかありますがひとつ例を挙げます。
IT部門の組織に問題がある場合です。
ユーザー企業に「インフラチーム」なるものが常設されていると怪しいでしょう。
何故かというと、一般的なITユーザー企業においてインフラは、自社では何も出来ないのに常設組織が存在するのは甚だおかしいのです。(プロジェクト体制下ではインフラ担当が存在しても構わない)
数々のインフラ担当だと言う方々にお目にかかりましたが、概ね「カタログおじさん」でした。
(通信プロトコルを自家設計・開発までしているチームもあり驚いたこともありましたが)
ベンダーの営業マン(及びフィールドSE)からの情報を丸暗記していて、ぱっと見「良く研究している」ように見えます。
ただ、それらの情報は自社のビジネス成長には、無駄知識である可能性が高いです。
このIT部門のカタログおじさんが、自分が出来る自分の仕事を作るという自己保身のためにそれっぽい理由(老朽化とかサポートが切れるとか)で順番を間違わせるケースを多数見てきました。
IT投資を検討する順番と言う意味では「ビジネス戦略」が最も大事です。
経営が、当社ビジネスを中期的にどうしたいのかが明記されているはずだからです。
その戦略に合致したIT投資が「絶対的に正しい」のであり、古くなったから取り替えるのは順番が違います。
かなり多くの経営者が情報システムの老朽化対策に悩んでいるかと思いますが、ITベンダーに相談すると「更新すべき」「刷新すべき」と言うでしょう。
更には「最新パッケージ適用によりビジネス成長に貢献出来ます」とまで嘯く可能性もあるので要注意です。
システム老朽化対策に投資が必要ですと言われたら、1番に「弊社に相談」していただきたい。
作為的な情報提供により順番を間違ってしまわないように。
■順番を間違うービジネス戦略策定
企業でどのような投資や施策を検討するにしても、最初にすべきはビジネス戦略をリファレンスすることです。
このビジネス戦略を策定する際に「順番を間違えている」ことが多い。
皆さんも「中期経営計画」を3年に一度くらい策定されているだろうか、それが「戦略」です。
中計(中期計画)策定時期になると、経営企画部門から「予算」を策定するように指示がありませんか?
予算の背景になる事柄を特定しなければ3年分の予算は策定できないのに「何故、財務目標が先に降ってくるのか」。
ビジネスの中期的な方向性が、先に降りてくるのが当たり前ではないでしょうか。
経営者が「自社を何処に導きたいのか」が大前提のはずが、何故だか経営企画部が鉛筆を舐めて造り出した「財務目標」が一人歩きを始めるのです。
また、中計は単年度の年次計画とは全然違うことにも留意が必要です。
年次計画は、中計に基づいてより詳細なビジネス計画を立案しなければなりません。
一方で中期計画には、人材育成(採用)計画や工場建設や営業所開設などの計画も含まれます。
何より大事にしたいのは「組織全体のケーパビリティの変化(成長)」を明確にすることだと考えます。
市場環境(分析)とか業界トレンド、デジタルテクノロジの進展などがしっかりと説明されているものはよく目にします。
ところが「経営者の想い」と「組織全体のケーパビリティの変化(成長)」について説明しているものはあまり目にしません。
そこを特定できず、どうやって中期的な経営を実施するのか不思議でたまりません。
何故、日本の企業は経営者が考えず経営企画部に考えさせ、財務目標から始めることを「よし」とするのでしょうか。
ビジネス戦略策定の順番は、経営者の想いが第一なのです。
■順番を間違えるー理由
守るべき順番を間違えてしまうと、本来得られたであろう結果を得ることができません。
殊更ビジネスにおいては、時間やリソースの損失の損失、果ては企業の衰退をも招くでしょう。
順番を間違える理由は『正しい順番を知らないから』からなのです。
但し、厳格にしすぎると柔軟性が失われ、アイディア発想や変化に迅速に対応することが難しくなるという問題は起こりえるので注意は必要です。
だからこそ、守るべき順番をきちんと理解して、知っておく必要があると思います。
知らないままにしておいてはいけませんね。
合同会社タッチコア 代表 小西一有
ゼヒトモ内でのプロフィール: 合同会社タッチコア, ゼヒトモのコンサルティングサービス, 仕事をお願いしたい依頼者と様々な「プロ」をつなぐサービス