TouchCore Blog | ビジネス成長のためのIT投資-経営視点で考える
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ビジネス成長のためのIT投資-経営視点で考える

経営(社長や役員) は「当社はIT投資が高すぎる」、情シス部門のトップは「経営はITのことがわかっていない」とそれぞれからよく聞く話です。
経営が本当にわかっていないのは、IT投資の目的なのです。
情シス部門からの投資決済申請についても、その投資がビジネス成長にどのように貢献するのかがわからなければ「もっと安くならないのか」と言ってしまうのも無理はないでしょう。
とはいっても、経営もどのようにIT投資を見るのかを理解しておかなければなりません。
また、IT部門は「頑張っている」と自己満足で終わらせてしまっていないですか?
本来は自社のビジネス成長に貢献しなければなりません。
結果、ITの価値は高まるのです。
今回は、IT投資の妥当性をどのように見るべきかについて、経営の視点でお話ししたいと思います。
それは逆に、情シス部門からIT投資についてどのように発信するべきかについても参考にしていただけるはずです。

■IT投資に関する誤解
■日本企業が陥りがちな泥沼
■IT投資を正しく捉える方法
■IT投資/ITマネジメントが企業変革を導く


■IT投資に関する誤解

経営者がIT投資を高いと感じる背景には、IT投資額について語られる際に売上高比率の数字が多く持ち出されるという事実があります。
失礼ながら、邪(よこしま)なITベンダーかコンサルタントに一服盛られているのではと、本当に心配になります。
しかし、それ以外の場合で経営が「当社はIT投資が高すぎる」と言う時は、肌感覚的には間違っていないことが多いのです。
経営には、会社をどうしたいのかという想いがあるはずで、それに沿わないIT支出が多いかもしれないと感じているのではないでしょうか。
IT投資が高くなるマイナス要因は様々ありますが、概ね以下のようなものだと思ってください。
・IT仕訳能力の低さ
・調達力が低い
・やらなくてもよいことをやっている
まず、IT支出に何を含めていて逆に何を含めていないかはかなり重要なポイントです。
よくある質問で「減価償却費を含むのかどうか?」というものがあります。
有形固定資産は、クラウド環境が進展することによってかなり減っていると思いますが、無形固定資産はかなり大きいのではないでしょうか。
自社のIT要員によって開発されている場合は、人件費と無形固定資産の勘定をどうするのかなど細かなことも気になるところです。
また、調達力が弱い、要するに外部IT要員や開発・運用保守費用についてマネジメントができていないという要因も考えられます。
一番の問題は、やらなくてもよいことをやっている場合です。
例えば、過剰なセキュリティへの投資や現場のITサポート、業務プロセス改善を目的としない既存システムの改修といったものがあるでしょう。
これらは一見やらなくてはならないことに見えるかもしれませんが、よくよく見極める必要があります。
その方法については、後方でお話しします。
さて、IT投資比率は低ければ低いほど良いのでしょうか?
IT投資比率が低すぎる場合は「すべきことをしていない」場合が多いのです。
ITはビジネス成長に資する投資を行えていない場合に対売上比率で業種平均を下回ることがわかっています。
IT支出の対売上比率の値は問題ではなく、何にお金がかっているのかに注目すべきなのです。


■日本企業が陥りがちな泥沼

-運用・保守にリソースの大半を取られている

「社員のほとんど運用・保守要員になっている」
「運用・保守を担当しているパートナー会社への支払削減ができない」
多くの企業がこういう構造に陥っているのではないでしょうか。
IT要員配置を十分に行えない企業では、運用・保守ばかりに追われていて「企業成長に貢献するIT」になっていないのです。
正しい値があるという思い込み
企業は、人間の身体とは違って個体差だらけなので、何にしても正しい値などある訳がありません。
血液検査の正常値のようにはいかないのです。
日本人の悪い癖ですが、具体的な数値目標を提示すると「なりふり構わず」数字だけ達成しようします。
経営戦略と照らし合わせて経年変化を見て、マネジメントの舵取りが「効いているのか」どうかを知るべきです。
舵取りが効いていないのなら、その理由を特定してトラブルシューティングしなければなりません。
しかし、正常値のような話をした瞬間に「正常値なら万歳!外れたら残念!」で話が終わってしまうことが多いのではないでしょうか。
減価償却と誤った財務指標の活用
日本企業がIT投資を見る際に多く陥る罠といえば、減価償却です。
減価償却という制度は多くの税金を課すために政府が考えた施策です。
なので、政府の胸三寸でいくらでも計算方法が変わります。
P/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)にヒットするではないかと言う方もいらっしゃいますが、それが「浅はか」です。
IT支出の健全性を語るのにP/LやB/Sが、いかほど役立つというのでしょうか?
インプットの仕方を間違えば「どんなに優秀な経営者」も判断を誤るでしょう。


■IT投資を正しく捉える方法

IT投資を正しく捉えることは、一筋縄ではいきません。
いくつかの方法を実践していただきたいと思います。
バックログで実態を捉える
「IT開発のバックログの一覧を見せて欲しい」
IT部門の責任者にこうリクエストをしてください。
バックログを見て驚くかもしれません。
すべきコトをしていない様がありありとわかるからです。
「今やっていること」は、何らかの決裁を通していて周知な場合が多いですが、問題は「やっていないコト」と「運用・保守に紛れているもの」です。
注意点としては「サマリ」ではない「Rawデータ」を見ることです。
何百件もあるのでサマリしてお見せしますと言われたら、問題が隠されているかもしれません。
バックログに「やらなければならないのに後回しにしている」案件が入っているとみてよいでしょう。
経年費用とライフサイクルで実態を捉える
新規にシステムを導入するとその後に運用保守に関わる費用が計上されていきます。
なので、導入に関わる費用が高価であればあるほど保守・運用費も高価になるわけなので、単純に新規投資を増やせばよいという話ではありません。
システムを導入する際、目先の導入費用だけを見るのではなく経年費用も考慮するようにということです。
すごく簡単に説明すると、システム開発は、何らかのベネフィットを獲得するために実施されます。
そして、事前に計画されたベネフィットが獲得できるか監査しながら改善を繰り返し所定のベネフィットを獲得します。
ベネフィット獲得が終了すれば、システムは用済みになるので「廃棄」されることになるわけです。
ここまでが、企業情報システムのライフサイクルです。
廃棄まで計画するのが基本だと心得てください。
それが見えてくれば、保守・運用にかかる費用をいかに抑えて新規投資を増やすのかに腐心できるというものです。
分類して実態を捉える(TGR)
何にお金が掛かっているのかに注目すると、新規投資と保守・運用費にわかれます。
新規投資は、固定資産勘定になる物件の話をしているわけではありません。
新規開発案件のことです。
IT支出を税務会計の基準で分類するのではなく、目的別に分類してみましょう。
目的別に分類することにより、ITの価値を経営体に正しく伝えることができるからです。
具体的には、T:Transform(変革)、G:Grow(成長)、R:Run(運用)の3分類に分類します。
経理部の勘定/仕訳方法ではなく、ITの目的別に支出を分類しようということです。
こうすると、ITの価値を経営に正しく伝えることができます。
例えば、2024年にはT:G:Rが1:2:7だったものが、2027年には2:3:5になっていたらどうでしょう?
CIOやIT部門長は、T:TransformやG:Growに力点を移しているということがよくわかります。
経営からすれば心地よい方向性になってきていると理解しやすくなります。
短絡的に「もっと安く」という議論には、ならないのではないでしょうか。


■IT投資/ITマネジメントが企業変革を導く
大事なことは、マネジメントの方向性に従って結果が出ているかどうかをチェックしアクションを正しく起こすことです。
IT投資の管理方法はそのための定義であることを忘れないでください。
多くの日本企業では、ストック思考(現在の数値の絶対値に依存する考え方)が強く、フロー思考(経年変化を重視する考え方)が欠如しているようです。
また、ITの価値と企業成長との関連性が軽視され、役員や経営企画部がITの可能性に関心を示さないケースも多いです。
さらに「支出」というか、単位が「円」になるものは財務会計基準の数字以外は信じないという特徴も持ち合わせています。
「情報と鋏は使いよう」

情報は「人の気持ちを変化させる経営資源」であり、その活用の巧拙が経営の成果を左右します。
今回お話ししてきたIT投資の捉え方(方法)は、ITの価値を経営者が見誤らないようにするための施策なのです。
そして、それこそがITマネジメントの真髄といえるでしょう。
経営者がこの価値を認識し、マネジメントの評価や改善に取り組むことが、企業変革の鍵となると思います。


合同会社タッチコア 代表 小西一有