(はじめに)「IT=合理化装置」という思い込み
多くの企業にとって、ITとは「手作業を減らすためのツール」、あるいは「人員削減のための投資」として捉えられてきました。表計算ソフト、勤怠管理システム、帳票出力など、業務の一部を自動化することは確かに便利ですし、労働集約的な作業から人を解放することにも繋がります。
しかし、この視点にとどまっている限り、ITは単なる“機械化の道具”としてしか使われません。
「機械化」の歴史的役割と限界
かつて工場の自動化やオフィス業務のOA化など、テクノロジーは人の手間を省く役割を果たしてきました。これは「合理化」や「省力化」という言葉で語られることが多く、経営上も「コスト削減」が主たるKPIとされてきました。
この文脈でITを捉えると、企業は“今ある業務をそのままデジタル化”しようとします。Excelでやっていたことをシステムに置き換える、紙で管理していたものをクラウドに載せる――それは一見効率化に見えますが、「変化」は生まれていません。
問題は、“何を”機械化するか
たとえば、ある企業がバックオフィス業務のシステム導入に取り組んだとしましょう。ところが、要件定義段階で「今の仕事をそのままIT化してほしい」と依頼されたケースでは、業務の中にある「そもそものムダ」や「構造的な歪み」は温存されたまま、ただデジタル化されただけになります。
結果として、業務は効率化されず、現場では「システムが使いにくい」「逆に手間が増えた」という不満が噴出することになります。
ITの“本質的な使い方”とは何か?
ITの真の価値は、単なる作業の効率化ではありません。
それは、「経営の意思を、現場に実装する手段」としての機能です。
企業が成長や競争力強化のために策定した戦略を、具体的な業務として現場で遂行する――その「橋渡し役」こそがITであるべきなのです。
しかし、その役割を果たすには、前提として「ビジネスプロセス」という視点が必要になります。つまり、組織全体がどのように価値を創出しているのか、その構造を明らかにし、再設計し、ITに落とし込む。このプロセスがなければ、どんなに高度なITを導入しても、成果は限定的になります。
(まとめ)ITを「戦略実行の道具」にするために
「ITはあくまで道具だ」とよく言われますが、問題はその“使い道”です。
ITを単なる自動化ツールとして使うのか、戦略の一部として使うのか。その視点の違いが、企業の将来を大きく左右します。
次回は、ITを「戦略の手足」として機能させるための基盤である「ビジネスプロセス」の考え方について詳しくお話しします。
合同会社タッチコア 代表 小西一有