TouchCore Blog | 【連載】「一個流し」仕事を止めないオフィス改革:第1回 「一個流し」は製造業だけの話じゃないー事務作業にも効くTPSの原則
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【連載】「一個流し」仕事を止めないオフィス改革:第1回 「一個流し」は製造業だけの話じゃないー事務作業にも効くTPSの原則

はじめに:「一個流し」とは何か?

「一個流し(いっこながし)」という言葉を聞くと、製造業の現場をイメージする方が多いかもしれません。これは、トヨタ生産方式(TPS)における重要な概念の一つで、製造ラインにおいて部品や製品を一つずつ次工程に流していく方式です。大量生産が主流だった時代にあっても、トヨタは「一つずつ、確実に、品質を保ちながら、在庫を最小化して流す」ことで、生産効率と品質の両立を実現してきました。
しかし、この考え方は「モノを作る工場の話」にとどまりません。実は、事務作業やオフィスワーク、さらには企画・営業・会計などのホワイトカラー業務にも適用できる原則なのです。
本連載では、トヨタの「一個流し」をオフィス業務にどう応用するか、そしてどうやって仕事を変えていけばいいのかを、5回に分けて詳しく掘り下げていきます。


「一個流し」に隠された本質

「一個流し」は単に「1個ずつ処理する」ことを指しているわけではありません。その本質は、仕事を停滞させずに流すこと、そして手戻りやミスを最小限にすることにあります。
例えば、製造現場で10個まとめて工程に出すと、1個に不具合があった場合、10個すべてを再検査・再修正する羽目になります。これに対して、1個ずつ流せば、不具合をすぐに検知し、影響を最小限にとどめることができるのです。
これは情報処理や事務仕事でもまったく同じです。たとえば、10件の顧客申込書をまとめて処理するような運用では、9件に問題がなくても1件の不備で全体が滞る可能性があります。しかも、それが判明するのは処理が終わった後。これでは、ミスの影響範囲が広がるだけでなく、再作業コストも大きくなってしまいます。


事務作業には「バッチ処理」がはびこっている

事務作業やオフィス業務の現場では、「一個流し」ではなく「バッチ処理(まとめて処理)」が常態化していることが少なくありません。たとえば、以下のような仕事のやり方はすべて「バッチ処理」です:
•週に1度だけ請求書を処理する
•月末にまとめて経費精算をする
•顧客対応を「あとでまとめてやろう」と溜めておく
•一日のメールを夕方になって一気に返信する
このようなやり方は、一見すると効率的に見えるかもしれません。しかし実際には、処理の遅れ、属人化、手戻りの増加、リードタイムの長期化、優先順位の混乱といったさまざまな問題を引き起こしています。

「仕事が滞っている」とはどういうことか?

情報の流れが滞るというのは、実は大きなコストを生んでいます。例えば、営業部門が作成した見積書が部長の承認待ちで1日放置されていると、その間に顧客への提案が遅れ、受注機会を逃すかもしれません。あるいは、経理が支払処理を後回しにした結果、支払い遅延によって取引先との関係が悪化することもあります。
このような「見えない在庫」や「手待ち時間」こそが、オフィス業務の非効率の正体なのです。モノの在庫と違って目に見えないため、問題として認識されにくいのが厄介な点です。


「一個流し」で見えてくる改善のヒント

「一個流し」を導入すると、こうした問題があぶり出されてきます。一つの仕事を最短距離で完了させる意識が芽生えるため、以下のような変化が起こります:
•無駄な作業の発見(たとえば、二重チェックや余計な報告書作成)
•仕事の流れの見直し(ボトルネック工程の発見)
•チーム内での仕事の共有化・標準化(属人化の解消)
「まとめてやった方がラク」ではなく、「流し続けた方がミスを減らすことが出来る・速く終われる」ことを、現場レベルで実感できるようになります。

このような人材がPMOにいることで、プロジェクト全体が「思考できる場」として再設計されていくのです。


まとめ:まずは「流れを見る」ことから始めよう

第1回目では、「一個流し」という考え方が、製造業の現場だけでなく事務作業にも活用できること、そして事務仕事でバッチ処理が多くの問題を引き起こしていることを見てきました。
次回は、この「一個流し」を実際に事務仕事にどう適用していくかについて、より具体的な業務例や処理単位の考え方を交えて解説していきます。


合同会社タッチコア 代表 小西一有