
日本の会議で乱用される「価値」は、しばしば会社の都合と混線して語られます。
「儲かる=価値がある」「原価より高く売れる=価値だ」といった発想です。
しかし、ここでで扱う価値はお客さまの進歩(Progress)に限定します。
進歩とは、
①望む成果に確度高く到達できる
②到達までの時間が短くなる
③手間や不安が減る
④使って気持ちが良い
……の総体です。
そして、支払額・学習負担・社内調整・実装リスク・待ち時間といった見えない負担を差し引いた残差を純価値と呼びます。
この再定義の狙いは、価格の話から思考を救い出すことにあります。品質が良くても、導入までに3週間の社内稟議、設定の難しさ、データ移行の面倒、障害時の不安が大きければ、お客さまは無意識に純価値の低さを感じます。
だからこそ、企業が競争するべき真の土俵は「機能の差」ではなく面倒をどれだけ消し、進歩をどれだけ加速できるかに移ります。
ここで、価値とビジネスモデルの関係を明確にします。
Who/What/How/Valueの四点で表されるビジネスモデルにおいて、価値はWhat(価値提案)に対応します。ただしWhat単独では機能しません。Who(誰に)の具体、How(どうやって進歩を生む運用や資源を組むか)、Value(進歩に連動して収益を得る設計)が同時に固定されて初めて、価値は武器になります。
実務の現場では、次の一行を会議の最初に置いてください
「誰の、どの場面の、どんな面倒を、どう解消するのか」。
この一行が曖昧なまま、機能議論や価格交渉に入るほど迷走します。逆に言えば、上の一行が具体化されれば、営業資料の冒頭、プロダクトの優先順位、サポートSLA、価格の説明の順番まで揃ってきます。
最後に、意思決定を支える実務式を提示します。
純価値 ≒(成果×確度)+(時間短縮)+(不安低減)+(体験)−(支払+手間+学習+調整+リスク+待ち時間)
数式そのものが重要なのではありません。“何を足し、何を引くのか”を全員で共有することが意思決定の質を上げます。
今週、この後の連載では、この定義をWho/What/How/Valueに落とし、実装と複合で模倣困難にする方法を具体化していきます。
合同会社タッチコア 小西一有