TouchCore Blog | Weekly:すべきコトを定義し、その困難を突破することだけが未来を拓く
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Weekly:すべきコトを定義し、その困難を突破することだけが未来を拓く

「出来そうなコトを考えるな!」

私はこの言葉を、挑発として使っているわけではありません。

日本企業がイノベーションから遠ざかっている最大の構造問題を、最も端的に表現できるからです。
多くの企業は「今の延長で出来そうなこと」から発想してしまいます。
DXでも、新規事業でも、業務改革でも同じです。
しかし、出来そうなコトとは、現状の制約を前提にした思考にすぎません。
現状の人員で、現状のスキルで、現状の組織のままで、現状の予算内で―その“現状条件”を一切疑わずに思考した結果が、「出来そうなこと」なのです。
だから、出来そうなコトは誰でも思いつきます。
上司も、同僚も、他社も、学生でも同じ答えに辿り着きます。
そこに独自性は生まれず、当然ながら競争優位も生まれません。
つまり、出来そうなコトを考える限り、企業は凡庸になるのです。


■正しいイノベーションの入口:すべきコトを描く

イノベーションは「出来そう」からは絶対に始まりません。
正しい入口はただひとつ。
「すべきコト(本来のあるべき姿)を定義すること」
すべきコトを描くと、必ず「出来なさそう」という感覚が立ち上がります。
前例がない、能力が足りない、組織が追いつかない、仕組みがない、抵抗がある―こうした「出来ない理由の洪水」に直面します。
しかし、この壁こそがイノベーションの源泉です。
なぜなら、
・難しいから誰もやらない
・面倒だから誰も真似できない
・時間がかかるから覚悟が試される
つまり、“困難の設計”こそが企業の競争力を生むのです。
すべきコトの実現には、仕組みの再設計が必要になります。
業務構造を変え、役割を変え、能力を育て、意思決定を変える必要が出てきます。
ここにこそ経営の仕事があります。


■とある教育機関で露呈した日本のDX教育の浅さ

先日、私はこの「出来そうなコトを考えるな!」という話を、とある教育機関で講義しました。
その場で参加者の一人が、得意げに経産省のDX関連レポートを持ってきてこう言いました。
「ここに“デジタルテクノロジーで何が出来るかを考えてみよう”と書いてあります。」
これには心底がっかりしました。
いや、驚いたというより、日本のDX教育と政策文書がいかに「発想を貧困化させているか」を実感した瞬間でした。


■“デジタルで何が出来るか?”は企業変革ではなく、情報産業へ献金になるかもしれない

多くの人は、「それはデジタル技術のショーケースに過ぎない」と控えめに言います。
しかし私は、もっと明確に言うべきだと思います。
『情報産業にお金を落とすための“罠”になりうる』
情報産業は、企業の構造改革や経営課題の本質を理解しているでしょうか?また理解しようとする意欲があるでしょうか。
彼らは、
「いかにイージーに開発案件にして稼ぐか」
という点が第一義でしょう。また経産省は、その“情報産業の都合”に沿った政策文書を発行して後押ししているように見えます。
「デジタルで何ができるか?」
という問いは、一見前向きに見えますが、実態は
「出来そうなコトを列挙して、そのまま開発案件にしませんか?」
と言っているだけです。
それはイノベーションとも改革とも言えません。
単なる“業界向けの営業促進資料”です。

国のレポートは国の都合で書かれています。
情報産業以外の企業競争力を高めるために書かれているわけではありません。
だからこそ、企業は文書を鵜呑みにしてはなりません。
自分の頭で考え、自分の現場で判断する力を捨ててはいけないのです。


■イノベーションとは、“困難を突破する設計”である

繰り返しになりますが、出来そうなコトは、イノベーションではありません。
すべきコトを定義し、その実現に必要な困難を設計することが、唯一のイノベーションなのです。
出来そうなことで未来が拓けるのであれば、
日本企業はとっくに世界をリードしているはずです。

出来なさそうな未来像を描き、出来ない理由をすべて構造的に潰し、
誰もやらない困難に挑む―。
この営みこそが、企業の進化を生みます。


“すべきコト”をやる覚悟がある企業が、次の時代をつくるのです。

合同会社タッチコア 小西一有