
DX、業務改革、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)。
どの文脈においても、「まず業務をモデリングすることが重要だ」という話は必ず出てきます。
しかし、実際にモデリングが組織に根づき、意思決定や改革に使われている例は驚くほど少ないのが現実です。
多くの企業で見られるのは、次のような状況です。
・一度はモデルを作ったものの、更新されなくなる
・一部の有識者やコンサルタントだけが触る資料になる
・現場から「実態と違う」と言われ、使われなくなる
これはスキル不足やツール不足の問題ではありません。
より根深い、組織の意思決定のあり方に起因する問題です。
問題①モデリングが「説明資料」だと思われている
多くの組織では、モデリングが無意識のうちに「上司や役員に現状を説明するための資料」
「システムベンダーに要件を伝えるための資料」という位置づけになっています。
この瞬間、モデリングは本来の力を失います。
本来、モデリングとは業務をどうするかを決めるための思考装置です。
選択肢を並べ、構造を可視化し、何を捨て、何を残すのかを決めるための道具です。
しかし、説明資料になった途端、「決める」ための機能は削ぎ落とされ、「分かりやすく見せる」ことだけが目的になります。
説明が終われば役目を終える資料に、業務改革のエンジンになれという方が無理なのです。
問題②モデリングが「専門家の仕事」になっている
もう一つの大きな壁は、モデリングが専門家の専有物になっていることです。
EA担当、企画部門、外部コンサルタントがモデルを描き、現場はヒアリング対象として関わります。
完成後に「共有」されますが、そこに自分たちの意思決定の痕跡は残っていません。
その結果、現場では次のような反応が起こります。
「理想論だ」
「うちの業務とは違う」
「また上から降ってきた」
これは当然の反応です。
なぜなら、モデリングは成果物ではなくプロセスだからです。
どの業務を一つと見なすのか、どこで区切るのか、何を例外として切り捨てるのか。
そこには必ず判断が伴います。
その判断に関わっていない人にとって、モデルは「他人の考え」でしかありません。
モデリングは描いた人のものではありません。
使って決める人のものでなければ意味がないのです。
問題③モデリングの「目的」が曖昧である
「業務を可視化したい」
「現状を整理したい」
「DXのために必要だから」
モデリングの目的として、よく聞く言葉です。
しかし、いずれも決定的に弱いと言わざるを得ません。
本来、問うべきなのは次の点です。
・このモデルで何を決めるのか
・どの意思決定が速く、楽になるのか
・どの調整コストを減らしたいのか
目的が曖昧なまま始めると、モデルの粒度は揃わず、議論は発散し、最後に必ず「で、これを何に使うのですか?」という問いに行き着きます。
これは失敗ではありません。
最初から設計されていなかった結果です。
モデリング導入の壁は、マネジメントの壁
ここまで見てくると明らかです。
モデリング導入に立ちはだかる最大の壁は、スキルや手法ではなく、マネジメントの姿勢にあります。
モデリングとは、業務を言語化し、構造として固定し、「これでいく」と決める行為です。
裏を返せば、「これ以外は捨てる」「これまでのやり方を変える」という覚悟を伴います。
曖昧なまま、場当たり的な調整で乗り切ってきた組織ほど、この覚悟を避けようとします。
しかし、決めない限り、業務は変わりません。
モデリングを導入するとは、図を描くことではありません。
業務を決める覚悟を、組織として持つこと。
その覚悟なきところに、DXもAI活用も、本当の業務改革も存在しないのです。
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合同会社タッチコア 小西一有