TouchCore Blog | Weekly:正論のモデリングが、組織に根付かない理由 ―モデリング導入に立ちはだかる“見えない壁”
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Weekly:正論のモデリングが、組織に根付かない理由 ―モデリング導入に立ちはだかる“見えない壁”

DX、業務改革、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)。

どの文脈においても、「まず業務をモデリングすることが重要だ」という話は必ず出てきます。

しかし、実際にモデリングが組織に根づき、意思決定や改革に使われている例は驚くほど少ないのが現実です。

多くの企業で見られるのは、次のような状況です。

・一度はモデルを作ったものの、更新されなくなる

・一部の有識者やコンサルタントだけが触る資料になる

・現場から「実態と違う」と言われ、使われなくなる

これはスキル不足やツール不足の問題ではありません。

より根深い、組織の意思決定のあり方に起因する問題です。


問題①モデリングが「説明資料」だと思われている

多くの組織では、モデリングが無意識のうちに「上司や役員に現状を説明するための資料」

「システムベンダーに要件を伝えるための資料」という位置づけになっています。

この瞬間、モデリングは本来の力を失います。

本来、モデリングとは業務をどうするかを決めるための思考装置です。

選択肢を並べ、構造を可視化し、何を捨て、何を残すのかを決めるための道具です。

しかし、説明資料になった途端、「決める」ための機能は削ぎ落とされ、「分かりやすく見せる」ことだけが目的になります。

説明が終われば役目を終える資料に、業務改革のエンジンになれという方が無理なのです。


問題②モデリングが「専門家の仕事」になっている

もう一つの大きな壁は、モデリングが専門家の専有物になっていることです。

EA担当、企画部門、外部コンサルタントがモデルを描き、現場はヒアリング対象として関わります。

完成後に「共有」されますが、そこに自分たちの意思決定の痕跡は残っていません。

その結果、現場では次のような反応が起こります。

「理想論だ」

「うちの業務とは違う」

「また上から降ってきた」

これは当然の反応です。

なぜなら、モデリングは成果物ではなくプロセスだからです。

どの業務を一つと見なすのか、どこで区切るのか、何を例外として切り捨てるのか。

そこには必ず判断が伴います。

その判断に関わっていない人にとって、モデルは「他人の考え」でしかありません。

モデリングは描いた人のものではありません。

使って決める人のものでなければ意味がないのです。


問題③モデリングの「目的」が曖昧である

「業務を可視化したい」

「現状を整理したい」

「DXのために必要だから」

モデリングの目的として、よく聞く言葉です。

しかし、いずれも決定的に弱いと言わざるを得ません。

本来、問うべきなのは次の点です。

・このモデルで何を決めるのか

・どの意思決定が速く、楽になるのか

・どの調整コストを減らしたいのか

目的が曖昧なまま始めると、モデルの粒度は揃わず、議論は発散し、最後に必ず「で、これを何に使うのですか?」という問いに行き着きます。

これは失敗ではありません。

最初から設計されていなかった結果です。


モデリング導入の壁は、マネジメントの壁

ここまで見てくると明らかです。

モデリング導入に立ちはだかる最大の壁は、スキルや手法ではなく、マネジメントの姿勢にあります。

モデリングとは、業務を言語化し、構造として固定し、「これでいく」と決める行為です。

裏を返せば、「これ以外は捨てる」「これまでのやり方を変える」という覚悟を伴います。

曖昧なまま、場当たり的な調整で乗り切ってきた組織ほど、この覚悟を避けようとします。

しかし、決めない限り、業務は変わりません。

モデリングを導入するとは、図を描くことではありません。

業務を決める覚悟を、組織として持つこと。

その覚悟なきところに、DXもAI活用も、本当の業務改革も存在しないのです。

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合同会社タッチコア 小西一有