
近年、経営学部の中に「情報コース」や「情報専攻」といった名称を見かける機会が増えました。デジタル化が進む現代において、経営とITを結びつける教育の重要性は、誰もが認めるところでしょう。
しかし、実際のカリキュラムや教育内容を見てみると、どうにも違和感を覚えることがあります。
それは—
「これは本当に“経営学部の情報教育”なのか?」
という素朴な疑問です。
多くの情報コースでは、プログラミング、データベース、ネットワーク、さらにはプロジェクトマネジメントといった科目が並びます。加えて、情報処理技術者試験の対策講座まで用意されているケースも少なくありません。
もちろん、これらの知識やスキル自体を否定するつもりはありません。むしろ、現代のビジネスにおいては重要な基礎です。
しかし、それらを体系的に並べた結果として浮かび上がる教育の姿は、どう見ても—
「ITベンダーに就職するための教育」に近いものです。
つまり、端的に言えば
“SE養成コース”に見えてしまうのです。
ここで改めて問い直したいのは、そもそも経営学部とは何を学ぶ場なのか、という点です。
経営学部は、本来、企業や組織の経営に資する知識や思考法を学ぶ場です。戦略、組織、マーケティング、会計といった領域を通じて、「企業をどう動かすか」「価値をどう生み出すか」を考える学問です。
その中で情報を扱うのであれば、本来の問いはこうなるはずです。
ITを使って、企業や組織をどう変革するのか?
であって、
ITをどう作るのか?
ではないはずです。
ではなぜ、経営学部の情報コースが「ITを作る側」の教育に寄ってしまうのでしょうか。
これは個々の大学や教員の問題というより、もう少し構造的な問題として捉える必要があります。
ひとつは、ITがいまだに“専門職の技術領域”として扱われているという点です。
企業においても、ITは長らく情報システム部門や外部ベンダーに委ねられてきました。
その結果、「ITは専門家に任せるもの」という認識が根強く残っています。
この延長線上で、「情報を学ぶ=技術を学ぶ」という発想になりやすいのです。
もうひとつは、経営とITを橋渡しする領域そのものが、十分に言語化・体系化されてこなかったという問題です。
「ITを活用して業務をどう設計するか」
「経営戦略をどうシステムに落とし込むか」
こうした領域は、現場では極めて重要でありながら、学問としても教育としても、十分に扱われてきたとは言えません。
結果として、教育の現場では「教えやすいもの」、
すなわちプログラミングやインフラといった技術領域に寄っていく傾向が生まれます。
その帰結が、現在の「情報コース」の姿です。
学生はプログラミングを学び、システム開発の基礎を学び、資格試験の対策を行う。
そして、その延長線上でITベンダーに就職していく。
それ自体は一つのキャリアとして自然な流れですし、否定されるべきものではありません。
しかし、それは本当に経営学部の中で行うべき教育なのでしょうか。
もし経営学部に情報コースを置くのであれば、そこで育てるべき人材像は、もう少し異なるはずです。
それは、ITを「作る人」ではなく、
ITを使って企業や業務を変える人です。
言い換えれば、企業の中でITと経営を結びつける、いわゆるIT企画人材です。
現在、日本企業においてデジタル化やDXが進まない最大の理由の一つは、このIT企画人材が圧倒的に不足していることにあります。
技術者はいる。ベンダーもいる。ツールも揃っている。
それでも変わらないのは、「何をどう変えるのか」を考え、意思決定し、実行に落とし込む人材がいないからです。
そう考えると、経営学部における情報教育の役割は、極めて重要です。
にもかかわらず、その教育が「SE養成」に近い形にとどまっているとすればー
それは、日本全体のデジタル競争力にも影響する問題と言えるでしょう。
では、なぜこのようなズレが生じているのか。
そして、経営学部における情報教育は、本来どのようにあるべきなのか。
次回は、こうしたズレが生まれた背景について、もう少し踏み込んで考えてみたいと思います。
合同会社タッチコア 小西一有