
新しい事業を始めなければならない。
そう思っている会社は、決して少なくないでしょう。
既存事業は、今のところ大きく崩れているわけではない。
売上も立っているし、日々の仕事も回っている。
けれど、このままで5年後、10年後も大丈夫なのかと聞かれると、自信を持って「大丈夫」とは言い切れない。
市場は変わり、顧客も変わっています。人手不足は進み、生成AIをはじめとする新しい技術も次々と登場しています。
何か新しいことを始めなければならない。
問題は、ここからです。
経営会議でその話が出ると、やがて誰かが担当になります。
「では、新しい事業を考えてみてくれないか」
こうして、まだ答えのない仕事が、一人の担当者の手に渡ります。
さて、あなたが担当者なら何から始めるでしょうか。
とりあえず、調べてみる
まずは競合他社の動きを調べ、最近伸びている市場を探すでしょう。
社内のメンバーを集めて、ブレインストーミングをするかもしれません。
そして今なら、生成AIを使うという選択肢もあります。
自社の強みや市場環境などの条件を与えれば、短時間でいくつもの新規事業案を提示してくれます。
さらに問いを重ねれば、想定顧客や市場、競合との違いまで整理してくれるでしょう。
以前なら何日もかかったような作業が、数時間でできるようになりました。
担当者は、その中から良さそうな案を選び、資料にして次の会議で説明します。
ところが、議論が始まると状況が変わります。
他社との違いはどこにあるのか、なぜ自社が取り組む必要があるのか。
既存事業とはどのようにつながるのか、本当に継続できる事業になるのか。
一つひとつ考えていくと、簡単には答えられません。
何かが足りない…。
本当に足りないのは、アイデアなのか
会議が終わったあと、担当者は、もっと良いアイデアを探す必要があるのではないかと考えます。
そこで再び生成AIを使い、条件を変えたり、別の市場を調べたりしながら、新たな案を探します。
アイデアはさらに増えていきます。
ところが、選択肢が増えれば増えるほど、かえって何を選ぶべきなのか分からなくなってくる。
ここで一度、立ち止まってみる必要があります。
本当に足りなかったのは、アイデアだったのでしょうか。
「何をつくるか」の前に考えること
新しい事業を考えるとき、私たちはどうしても製品やサービス、使う技術など、具体的な「何をつくるか」から考え始めます。
もちろん、それらも必要です。
しかし、その前に考えておかなければならないことがあります。
顧客の暮らしや仕事がどのように変わろうとしているのかを捉え、その変化によって、これまで当たり前だったことの何が変わるのか。さらに、自社が長年提供してきたものが顧客にとってどのような意味を持っていたのか、その意味がこれからも変わらないのかを考えてみる。
こうしたところまで掘り下げて初めて、自社がこれから提供すべき価値が見えてきます。
この過程を飛ばして、いきなり製品やサービスのアイデアを考えてしまうと、たくさんの案は出ても、自社が取り組む必然性のある事業にはなかなかつながりません。
他社でもできるものになったり、自社がやる意味を説明できなくなったりするのは、そのためです。
AIが答えてくれる時代だからこそ
これは生成AIが登場する以前からあった問題です。
ただ、AIの登場によって、その問題が以前よりはっきり見えるようになったように思います。
一連の工程を、AIがかなりの部分を支援してくれるようになりました。
つまり、答えらしきものを手に入れること自体は、以前よりはるかに容易になっています。
だからこそ、人間に求められるものも変わります。
答えを探す前に、何を考えるべきなのかを考える。
AIが答えてくれる時代には、この力がますます重要になるのではないでしょうか。
そして、日常業務に戻っていく
数週間後、社長から新規事業の検討状況を聞かれるでしょう。
担当者は、いくつか案は出ているものの、もう少し検討する時間が必要だと答えます。
社長も、それならまとまったところで改めて聞こうということになります。
そして担当者は、いつもの仕事に戻ります。
月末が近づけば数字をまとめなければならず、定例会議もあります。顧客からの問い合わせにも対応しなければなりません。
そこへ急ぎの仕事が入れば、当然そちらが優先されます。
新しい事業を考えることが重要ではないと思っているわけではありません。
本人も、やらなければならないことは十分に分かっています。
しかし、今日やらなければ困る仕事と、将来のために考えなければならない仕事が並べば、どうしても前者が優先されます。
そうしているうちに数週間が過ぎ、気がつけば新規事業の資料はパソコンのフォルダの奥に入ったままになっています。
企業で新しいことが生まれない理由は、アイデアがないから…に限りません。
アイデアを会社が動ける構想にするところまで考える時間とプロセスが、日常の仕事の中に用意されていない。
そこにも、大きな理由があるのではないでしょうか。
一人の担当者に任せるだけでは、会社の力にならない
さらに考えておきたいことがあります。
仮に、その担当者が優秀で、素晴らしい事業構想をつくることができたとしても、それだけで会社として新しい事業を生み出す力が身についたとは言えません。
新規事業やDXを進める場面では、経営者、事業部門、IT部門、現場など、それぞれが異なる視点から物事を見ています。
経営者は事業としての可能性を考え、現場は業務への影響を考えます。
IT部門はシステムやデータの観点から実現性を考え、技術に詳しい人は新しい技術によって何が可能になるかを考えます。
それぞれの視点は必要です。
問題は、それらが一つの議論としてつながらないことです。
DXについて話しているはずなのに、ある人はAIの話をし、ある人はシステムの話をし、別の人は業務効率の話をしている。
そこに経営者から収益性の話が加わると、同じテーマについて議論しているようで、実際にはそれぞれが別のものを見ていることがあります。
必要なのは、DXをツール名や技術名だけで捉えるのではなく、それによって顧客にとっての意味がどう変わるのか、どのような価値を生み出すのか、実現のために事業や業務をどのような構造にするのかまで、同じ土俵で議論することです。
意味、価値、構造という共通言語を持つ。
それによって初めて、経営、事業、IT、現場の議論がつながり始めます。
部門と部門の間に立てる人を育てる
そこで必要になるのが、異なる部門の間に立つことのできる人です。
事業に詳しい人がITにも精通し、ITに詳しい人が経営や営業の専門家にもなる、ということではありません。
すべてを一人で理解することは現実的ではないでしょう。
大切なのは、それぞれの専門性を理解しながら、異なる領域の間をつなぐことです。
事業側が求めていることを技術側に伝え、技術によって可能になることを事業側の言葉に置き換える。
経営が目指している方向を現場の仕事につなげ、現場で起きている問題を経営の課題として捉え直す。
こうして事業、技術、IT、現場を行き来しながら構想をつくることのできる人材が社内にいれば、DXや新規事業は一部門だけの活動ではなくなります。
「勉強になった」で終わらせない
人材育成を考えるうえでは、もう一つ大切なことがあります。
研修が終わったあと、会社に何が残るのかということです。
研修を受け、新しい考え方を知り、刺激を受ける。
それ自体には意味があります。しかし、日常業務に戻れば、その記憶は少しずつ薄れていきます。
だからこそ、学んだ知識だけではなく、その知識を使って自社について実際に考えたものを残す必要があります。
誰にどのような価値を提供するのか、から、その構想が本当に成立するのかを、何から確かめていくのか。
そこまで考えることで、研修が終わったあとには、自社について考えた具体的なDX・事業構想と、その仮説を確かめるための検証計画が残ります。
そして、残すべきものは完成した構想だけではありません。
どのような変化に着目し、なぜその顧客を対象にしたのか。
そこからどのような価値を考え、なぜその事業の形を選んだのか。
こうした思考の過程が見えるようになれば、他の社員もその構想について議論できるようになります。
誰か一人の経験やひらめきだったものが、他の人も検討し、共有し、修正し、次の構想にも活用できるようになる。
それが、個人の経験を組織の「設計知」へ変えるということです。
研修が終わったあと、会社に何を残すか
弊社が10月から開講する「新イノベーション創造講座」で目指しているのは、単にDXについて詳しい社員を増やすことではありません。
受講者がDXや新規事業を意味、価値、構造という視点から捉えられるようになれば、社内で異なる部門と議論するための共通言語が生まれます。
その人が事業、技術、IT、現場を行き来できるようになれば、それぞれの専門性をつなぎながら構想をつくることもできるようになります。
さらに、講座では自社を題材に考えるため、学んだ知識だけでなく、具体的なDX・事業構想と検証計画を持ち帰ることができます。
そして、その構想に至った思考の過程まで組織で共有できれば、個人の経験を次の事業検討にも使える設計知として蓄積していくことができます。
つまり、一人を研修に出して終わるのではなく、その人を起点に、会社の「新しい事業を考える力」をつくっていく。
それが、この講座を通じて企業に持ち帰っていただきたい成果です。
生成AIによって、答えを出すことはこれからますます容易になっていくでしょう。
だからこそ企業には、何を問うのかを考え、そこから生み出す価値を見定め、それを事業として構想できる人材が必要になります。
そして、その人だけが考えられる状態ではなく、考え方そのものを組織に残していくことも必要です。
もし今、社内の誰かに新しい事業やDXの検討を任せているのであれば、その人に答えだけを求めるのではなく、考えるための時間と方法を渡すことから始めてみてはいかがでしょうか。
10月開講の「新イノベーション創造講座」は、考え、試し、構想を形にしていく場として設計しています。
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