TouchCore Blog | 【3回連載】デジタル時代だからこそ再考したいシリーズ:第2回「ビジネスプロセスという概念が、なぜ重要なのか」
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【3回連載】デジタル時代だからこそ再考したいシリーズ:第2回「ビジネスプロセスという概念が、なぜ重要なのか」

(前回のおさらい)

前回は、ITを単なる「機械化ツール」として見る限り、経営にとっての本当の価値を引き出せないという問題を指摘しました。そして、ITを「戦略を実行する道具」として活用するには、「ビジネスプロセス」という視点が不可欠であるとお話ししました。
では、この“ビジネスプロセス”とは一体何なのでしょうか?
そして、なぜそれが日本企業にとって重要なのか?
今回はその核心を掘り下げていきます。

「ビジネスプロセス=業務フロー」ではない

多くの現場で「ビジネスプロセス」と言えば、「業務手順」や「作業の流れ」をイメージするかもしれません。確かに、フローチャートや手順書はプロセスの一部を表現しています。
しかし、真のビジネスプロセスとは、それ以上のものです。
ビジネスプロセスとは何か?
 ・組織が顧客に価値を提供するために構成された一連の活動の連鎖
 ・経営戦略が現場で具現化される構造
 ・価値創出のための仕組み
たとえば、「新商品開発プロセス」や「顧客対応プロセス」は、単なる手順の集合ではなく、「何を重視し、どう差別化し、どう意思決定するか」といった経営思想を含んでいます。

戦略とプロセスは表裏一体である
経営戦略は、企業の「やりたいこと」「目指す姿」を示します。
しかし、それが組織内でどう行動に結びつくかを決めるのがビジネスプロセスです。
例:製造業での違い
 ・低コスト戦略を取る企業は、「標準化・自動化された製造プロセス」を構築します
 ・高品質重視の企業は、「品質チェックに重点を置いたプロセス」になります
このように、戦略によってプロセスは変わるべきなのです。
逆に言えば、プロセスが変わっていなければ、「戦略は変わっていない」と見なすべきです。
日本企業に「プロセス」が根付かない理由

残念ながら、日本企業では「ビジネスプロセス」の考え方が十分に浸透していません。
理由は複数ありますが、主なものは以下の通りです。
1. 職能別組織と縦割り文化
各部門が独立しており、「プロセス=部門横断」という発想が受け入れられにくい。営業、製造、開発、総務などがバラバラに最適化されているだけで、全体最適視点に欠ける。
2. 暗黙知の重視と属人化
「うちのやり方は阿吽の呼吸でやってるから」という文化。プロセスの可視化や形式知化が進まないため、改善もIT化も進めにくい。
3. “改善”はしても、“再設計”しない
現場ではカイゼン活動が盛んだが、「ゼロベースでプロセスを見直す」ことが少ない。結果として、“非効率な構造のまま改善”というパッチワーク的な対応が続いている。

プロセス思考がもたらす変革

ビジネスプロセスというレンズを通すことで、以下のような変化が起きます。
 ・経営戦略と業務のズレを可視化できる
 ・本来不要な作業や判断を排除できる
 ・ITの要件定義が「作業」ベースから「価値創出」ベースへ転換できる
これらはすべて、ITを「経営の道具」として活かすための基礎です。

(まとめ)プロセスなくしてITは活きない

「今のやり方をそのままIT化してください」という要望は、日本企業の典型的な失敗パターンです。それはプロセスの再設計をせず、ただ機械化しているに過ぎません。
戦略に基づいたプロセスを再構築し、そのプロセスをITで支援・自動化する。
この順序で考えることで、初めてITは“経営を動かす力”になります。


次回(最終回)では、ITがいかにして経営戦略を“現場で動かす”ための手段になるのか―その設計思想と実行のポイントを深掘りしていきます。外部CIOのような専門家の関与がなぜ必要になるのかにも触れていきます。


前回:第1回「ITとは“機械化ツール”なのか?」― 真の価値を再考する

合同会社タッチコア 代表 小西一有