基幹系は「記録のシステム」
基幹系システムとは、企業活動を余すところなく 入力・記録 するための仕組みです。販売管理、生産管理、在庫管理、購買管理、人事給与など、日々の業務で発生する取引(トランザクション)を一つひとつ残し、企業活動の証跡を蓄積します。
例えば「受注を記録する」「出荷を記録する」「給与を計算し記録する」。これらはすべて「記録すべき事実」を入力する行為であり、この積み重ねが企業の存在証明となります。基幹系が止まれば、記録が失われ、企業活動そのものが“存在しなかったこと”になってしまうのです。
情報系は「加工と出力のシステム」
一方で情報系システムは、基幹系で記録されたデータを 加工・集約し、意思決定に役立つ情報へ変換する仕組み です。代表的なものにデータウェアハウス(DWH)、BIツール、経営ダッシュボードがあります。
例えば、基幹系が残した「全店舗の売上データ」を集め、地域別や商品別に集計する。あるいは「人事給与データ」を使って人件費のトレンドを分析する。これらは「記録」ではなく「加工による意味付け」です。情報系は基幹系の上に立ち、経営判断の材料を提供する役割を果たします。
なぜ両者を区別する必要があるのか
日本企業では「情報系=おまけ」「基幹系=会計」という矮小化が進んできました。そのため「経営のための情報活用」が後回しにされ、データ活用の文化が根付かなかったのです。
基幹系は 事実を残すこと に特化しており、情報系は その事実から知見を得ること に特化しています。この両輪が揃って初めて「正しい経営判断」が可能になるのです。基幹系が正しく記録していなければ、情報系の分析は砂上の楼閣となり、逆に情報系を軽視すれば、基幹の記録は活かされず“死蔵データ”になってしまいます。
現場での誤解とその弊害
私が大手金融機関のシステム企画部にいた頃、私は「情報系」の担当でした。一般的には「情報系は基幹系ほど厳密ではなくてもいい」と思われがちです。しかし実際には、情報系にも緻密な設計が必要です。なぜなら、基幹系から受け取ったデータを正しく解釈し、間違いなく加工して情報に変えなければならないからです。
この誤解が原因で、「基幹=厳密、情報=いい加減」という偏った意識が広まり、情報系に十分な投資や人材育成が行われず、経営情報の信頼性が損なわれてきました。
記録と加工をつなぐ「意味づけ」のプロセス
基幹系と情報系の関係を分かりやすく言えば、次のようになります。
•基幹系:レシートに「買ったもの」「値段」「日付」を記録する
•情報系:レシートを集めて「家計簿」として支出傾向を分析する
どちらが欠けても、経営は成り立ちません。レシートがなければ家計簿は作れず、家計簿がなければ支出の傾向は分かりません。基幹系と情報系は役割は異なりますが、両者が補完し合って初めて意味を持つのです。
まとめ
基幹系は「企業活動を記録する仕組み」、情報系は「記録を情報に変換する仕組み」。この区別を曖昧にしたままでは、IT投資の方向性を誤り続けることになります。基幹と情報を正しく位置付け、両者を連携させることが、これからの企業経営において不可欠なのです。
第1回:基幹システムとは何かー会計システムという誤解
合同会社タッチコア 小西一有