近年、日本の国際的な立ち位置は大きく揺らぎつつあります。かつては「技術立国」「経済大国」と呼ばれ、世界のトップを走ってきた日本ですが、冷静にデータを見てみるとその姿は様変わりしています。こうした状況を直視することが、中堅・中小企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進すべき理由を理解する第一歩になります。
日本の競争力は世界でどの位置にあるのか
まず注目すべきは、スイスのIMDが毎年発表している「世界競争力ランキング」です。2025年の結果によれば、日本は 69か国中35位 にとどまっています。かつて世界の上位を争っていた日本が、いまや先進国の中では中位から下位に位置するという厳しい現実があります。
さらに、同じくIMDが発表する「世界デジタル競争力ランキング」では、2024年の日本の順位は 67か国中31位 でした。デジタル技術の導入力や人材育成力、制度の整備といった観点で、日本は欧米諸国だけではなく、アジアの国々にも後れを取っています。これは「日本のデジタル活用の弱さ」を如実に示すものです。
生産性の国際比較で見える課題
さらに深刻なのは「労働生産性」です。OECD加盟38か国の中で、日本の時間当たり労働生産性は 第29位 に沈んでいます。1時間当たりの付加価値額は約56ドル強とされ、トップクラスの国々の半分程度にとどまっています。
この「生産性の低さ」は、日本企業の稼ぐ力の弱さを象徴しています。人材不足や人件費上昇が深刻化する中で、低い生産性のままでは国際競争に勝ち残ることは困難です。そしてこの課題は、大企業だけでなく、むしろ中堅・中小企業にとってより大きなリスクとなっています。
経済規模でも迫るインド
国際社会における日本の存在感を示すもう一つの指標がGDPです。長らく世界第3位の経済大国としての地位を保ってきた日本ですが、近年は成長著しいインドに追い上げられてきました。そしてIMFなど複数の国際機関の予測によれば、2025年にはインドが名目GDPで日本を抜き、第4位に転落するとされています。すでに一部の統計では、インドが日本を上回ったと報じられています。
もちろん、この順位変動には為替レートや物価水準といった外的要因も影響しています。しかし、それでも「経済の重心がアジアの新興国に移りつつある」という大きな流れを示す事実に変わりはありません。人口減少と低成長が続く日本が、このままの構造を維持していては、世界経済の中で埋没してしまう危険性があります。
なぜ中堅・中小企業にDXが必要なのか
これらのランキングやデータが突きつける現実は、日本全体が「現状維持では通用しない時代」に突入しているということです。大企業はもちろんのこと、日本経済の屋台骨を支えている中堅・中小企業にとっても、変革は待ったなしです。
特に中小企業は、大企業と比べて人材・資金・時間の制約が大きいため、「従来のやり方を守る」発想では競争に取り残されてしまいます。その一方で、中小企業には「意思決定の速さ」や「組織の柔軟性」といった強みもあります。DXは、この強みを最大限に活かしつつ、限られた経営資源を効率的に活用するための有力な手段となり得ます。
危機感を行動に変える
日本の競争力が落ちているという事実を前にして、悲観する必要はありません。むしろ、ここにこそ変革のチャンスがあります。危機感を持ちつつ、未来志向の行動に転じることができるかどうかが、今後の成否を分けるのです。
中堅・中小企業がDXに取り組むことは、単なる業務効率化ではなく、自社の存在意義を問い直し、地域や業界の未来を切り開く挑戦でもあります。次回は、そのDXをめぐる誤解について掘り下げ、日本企業がなぜ本質を見誤りやすいのかを考えていきたいと思います。
第2回予告:9月22日(月)
「DXを誤解していませんか? ─ IT導入=DXではない」
(理系の大学院の講義で学生たちが答えた“DXのイメージ”から見えてきた、驚くべき現状をお伝えします)
合同会社タッチコア 小西一有