DXを進めるとき、多くの企業が「現状業務の可視化」から始めます。しかし、これは改革の本質を外しています。DXの目的は 現状改善ではなく、「戦略を実装すること」だからです。そのためには、エンタプライズ・アーキテクチャ(EA)の考え方を取り入れ、戦略から業務、そしてシステムへと一貫して落とし込むことが欠かせません。
戦略から業務プロセスへ ― 業務モデリングの役割
EAの最上位にあるのは ビジネスアーキテクチャ(BA) です。ここで定義されるのは「誰に、どんな価値を提供し、どのように収益を上げるのか」という戦略の姿です。
この戦略を業務に翻訳するのが 業務モデリング です。モデリングによって、戦略を支える業務プロセスを設計し、さらにそれを現場で実行可能な業務手順にブレークダウンしていきます。
・戦略レベル(BA):市場・顧客・価値提案の定義
・業務プロセス設計:戦略を支える主要な業務の流れをモデル化
・業務手順設計:業務プロセスを現場が実行可能なタスクに細分化
この「業務モデリング」を経ることで、戦略が単なるスローガンで終わらず、現場で実際に回る仕組みに変換されます。
プロセス設計と手順設計を分けて考える
ここで重要なのは、「業務プロセスの設計」と「業務手順の設計」を明確に分けて捉えることです。
・業務プロセス設計:戦略を実現するために必要な大きな流れ(例:新規顧客獲得 → 受注 → 製造 → 請求)を定義する。
・業務手順設計:その流れを現場でどう実行するか、具体的なタスクや担当、判断基準を決める。プロセスがなければ手順は場当たり的になり、手順だけでは全体最適につながりません。両者をモデルで設計することで初めて、戦略と現場がシームレスにつながるのです。
DAとAAにつながる
業務モデリングを行い、プロセスと手順を設計すれば、次に自然と必要になるのが データアーキテクチャ(DA) と アプリケーションアーキテクチャ(AA) です。
・業務プロセスを実行するには、どんなデータが必要か(DA)
・そのデータを扱うために、どんなアプリケーションが必要か(AA)
ここまで落とし込んで初めて、システム導入の具体像が見えてきます。つまり、業務モデリングはシステム投資の羅針盤 なのです。現場ヒアリングから入ってしまうと、BAとDA/AAがつながらず、結果として「部分最適システム」が乱立する原因になります。
DXの第一歩を間違えないために
中堅・中小企業のDXの第一歩は、現状業務の棚卸しではありません。戦略を起点に業務モデリングを行い、業務プロセスと業務手順を設計し、それをDA・AAに落としていくことです。
EAの考え方を取り入れることで、戦略とITの分断を防ぎ、投資効果を最大化できます。DXを単なるデジタル化やシステム導入と誤解せず、「戦略を業務とシステムに貫通させるプロセス」として捉えることが必要です。
まとめ
DXの正しい第一歩は、業務モデリングによる戦略の業務化です。プロセスと手順を設計し、それをデータとアプリケーションに接続する。この流れを意識することで、戦略と現場、ITが一本の線でつながり、中堅・中小企業は初めて競争力を強化するDXを実現できます。
第4回予告:10月6日(月)
「DX人材=開発力?──その思い込みが日本企業を苦しめています 」
合同会社タッチコア 小西一有
第1回:なぜ今、中堅・中小企業にDXが必要なのか
第2回:DXを誤解していませんか?―IT導入=DXではない