TouchCore Blog | 第2回:過去の成功体験という“呪縛”
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第2回:過去の成功体験という“呪縛”

「うちはこのやり方で伸びてきた」
「以前も同じ判断で成功した」

経営者の口からしばしば聞かれるこの言葉は、誇らしい自信の表れであると同時に、変化を拒む強力な“呪縛”でもあります。

成功体験は「財産」であり「足かせ」

経営における成功体験は、本来なら貴重な資産です。市場の癖を見抜いた経験、組織を率いた自信、判断の勘どころ。これらは経営を支える大切な土台です。

しかし、成功体験はしばしば「思考停止」をもたらします。かつてのやり方が正解だったから、これからも通用するだろう――そう信じてしまうのです。

ところが、市場環境や顧客行動は年々変化しています。インターネットの普及、スマートフォンの登場、SNSによる口コミ文化、そしてAIの進化。過去の正解が、今では誤答になることは珍しくありません。


「成功の方程式」が裏切る瞬間

ある製造業の経営者は、かつて「大量生産・低コスト化」で成功しました。その成功が強烈な記憶として刻まれているため、新規事業の会議では常に「規模を大きくしなければ意味がない」と主張します。

しかし現代では、少量多品種やD2Cの小回りの利くモデルが市場を席巻しています。顧客は必ずしも「安さ」だけを求めていないのです。

このとき、経営者の頭の中には「成功の方程式」が染み付いており、新しい情報を受け取っても、「それはうちには合わない」と退けてしまうのです。まさに過去の成功が現在の足かせになっている瞬間です。


組織文化としての“呪縛”

成功体験は個人の記憶にとどまりません。組織文化として根を下ろします。

「うちのやり方はこうだ」
「この業界ではこれが常識だ」

こうした言葉は、社員を守る壁であると同時に、変化を拒む強固なバリアでもあります。経営者が「正しい情報」を受け取っても、組織全体に過去の成功体験の呪縛が染み付いている限り、行動を起こすことは難しいのです。


経営者が持つべき視点:成功を「仮説」と捉える

では、どうすればよいのでしょうか。
鍵は「過去の成功を絶対視しない」ことです。

過去の成功は「その時代、その環境、その条件下で成立した仮説にすぎない」と認識すること。仮説である以上、環境が変われば無効になる可能性があるのです。

行動できる経営者は、成功体験を誇るのではなく、常に「アップデートすべき前提」として疑います。そして、小さな実験を通じて新しい仮説を検証し続けるのです。 


まとめ

経営者が正しい情報を前にしても動けない理由のひとつは、「過去の成功体験」が呪縛となって未来を閉ざすからです。
次回はさらに深く踏み込み、「リスク回避と責任回避の心理構造」について掘り下げます。


合同会社タッチコア 小西一有

第1回:なぜ「正しい情報」があっても動けないのか