
日本企業で業務モデリングに取り組んだ経験のある方なら、一度は見たことがある光景ではないでしょうか。
立派な業務フロー図や業務一覧が作られ、会議で説明され、「よく整理されていますね」と評価されます。
しかし、その後そのモデルが更新されることはなく、意思決定に使われることもなく、静かに忘れ去られていきます。
このとき、業務モデリングはすでに「説明資料」になっています。
日本企業における業務モデリングの多くは、無意識のうちに
・上司や役員への説明用
・ベンダーへの要件説明用
・監査や報告のための資料
という位置づけに落ちてしまいます。
説明資料である以上、目的は「分かりやすく伝えること」です。
そこでは、対立や迷い、捨てた選択肢は表に出てきません。
結果として、モデルは“きれい”になりますが、“意思”は消えてしまいます。
本来、業務モデリングとは「業務をどうするかを決めるための思考装置」です。
どこを標準化し、どこを例外として残すのか。
どの業務を統合し、どの業務をやめるのか。
そうした判断を下すために、業務を構造として可視化します。
しかし、説明資料として作られたモデルでは、「決める」という行為が最初から回避されます。
なぜなら、決めるということは、誰かのやり方を否定し、誰かの仕事を変えることを意味するからです。日本の組織において、それは極めてコストの高い行為です。
その結果、モデルは「現状を忠実に写した地図」にはなっても、
「進む方向を決める羅針盤」にはなりません。
さらに厄介なのは、説明資料としてのモデリングが「やった感」を生むことです。
資料は整っています。説明もできています。だから次のステップに進んだつもりになります。しかし実際には、業務の意思決定は何一つ変わっていません。
業務モデリングが活用されない理由は、「使い方が下手だから」ではありません。
最初から「使うためのもの」として位置づけられていないのです。
業務モデリングを説明資料から解放しない限り、DXも、業務改革も、構造的な変化は起きません。
次回は、なぜ業務モデリングが「専門家の仕事」になってしまうのか、その背景を掘り下げていきます。
合同会社タッチコア 小西一有
第1回:なぜ日本では「業務をモデルで考える」文化が育たなかったのか―「業務モデリング」が日本で活用されない理由①