
前回、経営学部の「情報コース」が、結果として“SE養成コース”に近い姿になっているのではないか、という問題提起を行いました。
では、なぜこのようなズレが生じてしまったのでしょうか。
これは単にカリキュラム設計の問題ではなく、もう少し根の深い構造的な問題として捉える必要があります。キーワードは、「経営学とITの分断」です。
もともと企業において、ITは経営の中核にあるものではありませんでした。
ITはあくまで業務を効率化するための“道具”であり、その導入や運用は専門部門、あるいは外部のITベンダーに任せるものとされてきました。
この構造のもとでは、経営層や事業部門がITの中身を理解する必要はありません。
「要件を伝えれば、あとは作ってくれる」という関係性が成立していたからです。
しかし、この前提はすでに崩れています。
デジタル化が進んだ現在、ITは単なる効率化の手段ではなく、ビジネスモデルそのものを規定する要素になりました。
顧客体験、サプライチェーン、意思決定プロセス—そのすべてにITが深く関与しています。
つまり、
ITは“経営そのもの”に組み込まれる存在になったのです。
にもかかわらず、日本の多くの企業、そして教育機関においては、依然として旧来の分業構造が残っています。
・経営は経営として考える
・ITはITとして専門家に任せる
この分断が、さまざまな問題を引き起こしています。
典型的なのが、「要件定義の失敗」です。
経営側は「こういうことをやりたい」と曖昧に伝え、IT側はそれを技術仕様に落とし込もうとする。
しかし、そもそも業務やビジネスの構造が整理されていないため、出来上がったシステムは「思っていたものと違う」ものになります。
そして、追加開発や仕様変更が繰り返され、プロジェクトは迷走する。
これは決して珍しい話ではありません。
この問題の本質は、「ITの問題」ではありません。
経営とITをつなぐ役割が不在であることです。
本来であれば、
・経営戦略を理解し
・業務プロセスを構造化し
・それをITに落とし込む
という役割を担う人材が必要です。
しかし、この領域は長らく「誰の仕事でもないグレーゾーン」として扱われてきました。
そして、この構造はそのまま教育の現場にも持ち込まれます。
経営学は経営学として教えられ、ITはITとして教えられる。
しかし、その間をつなぐ領域—すなわち「IT企画」や「業務設計」といった分野は、体系的に教えられることがほとんどありません。
結果として、「情報コース」と名付けられた教育は、どうしても技術寄りになります。
なぜなら、技術は教えやすいからです。
・プログラミングには明確な正解がある
・ネットワークやデータベースには体系化された知識がある
・資格試験という評価軸も存在する
一方で、
・業務をどう構造化するか
・経営戦略をどうITに落とし込むか
といった領域は、正解が一つではなく、教える側にも高い実務知が求められます。
この違いが、教育内容の偏りを生む要因となっています。
もうひとつ見逃せないのが、教員のバックグラウンドです。
情報コースを担当する教員の多くは、ITベンダー出身、あるいは技術分野を専門とする研究者です。
彼らの知識や経験は非常に価値のあるものですが、その多くは「システムをどう作るか」に関するものです。
一方で、「企業の中でITをどう使いこなすか」という視点は、必ずしも中心には据えられていません。
こうして、
・経営とITが分断され
・その橋渡し領域が不在のまま
・技術教育だけが強化される
という構造が出来上がります。
これが、経営学部の情報コースが「SE養成」に近づいていく背景です。
重要なのは、これは誰かの責任というよりも、長年にわたって積み重なってきた構造の結果だという点です。
だからこそ、この問題を解くためには、単にカリキュラムを少し変えるだけでは不十分です。
「経営とITをどう統合して捉えるか」
という発想そのものを見直す必要があります。
では、その統合を担う人材とは、どのような存在なのでしょうか。
そして、そのような人材は、従来のプログラミング教育の延長で育てることができるのでしょうか。
次回は、「元SEが教える情報教育」という観点から、この問題をさらに掘り下げていきます。
合同会社タッチコア 小西一有
第1回 経営学部の「情報コース」は誰のためのものか?