TouchCore Blog | DX・IT:その業務一覧、中身は作業手順ではありませんか ―「現状の棚卸」から始めないDX(第2回/全4回〉
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DX・IT:その業務一覧、中身は作業手順ではありませんか ―「現状の棚卸」から始めないDX(第2回/全4回〉

分科会の机の上に、各部門から提出された「業務一覧」が並んでいます。

営業、製造、品質管理、物流。

それぞれの担当者が、忙しい仕事の合間を縫って書いてくれた資料です。 

注文書を受け取る。

内容をシステムに入力する。

担当部署へメールを送る。

回答を待ち、納期を顧客に連絡する。

そこには、普段どのように仕事を進めているかが、丁寧に記されています。

これだけ集まれば、会社の業務が見えるようになった気がするでしょう。


しかし、その資料を読み込めば、「当社は新しい顧客の要求に、どこまで応えられるか」が分かるでしょうか。

前回に続き、薄板特殊鋼板を扱うメーカーを仮想の例として考えてみます。


この会社に、新しい取引先から相談が入りました。

普段製造している汎用品とは仕様が異なり、注文数量も大きい。

さらに、短納期での納品を求められています。

営業の手順書には、「仕様を技術部門へ確認する」と書かれています。

技術部門の資料には、「製造可否を検討し、営業へ回答する」とあります。

生産計画の担当者は、設備の稼働予定を確認する。

物流担当者は、輸送の手配をする。

担当者ごとの作業は、一通り説明されています。

ところが、技術部門が「製造可能」と回答しても、それだけでは注文を受けられません。

必要な材料を確保できるのか。

既存の注文と両立できるのか。

求められる品質を確認し、輸送まで含めて期限に間に合わせられるのか。

それらを合わせて判断しなければ、顧客に納期を約束できないからです。

ここで、「関係部門と調整する」という一文が登場します。

実は、その一文の中にこそ、会社として設計しなければならない仕事が隠れています。

が必要な情報を集めるのか。

どの条件がそろえば受注してよいのか。

部門ごとの判断が食い違ったら、誰が決めるのか。

全量を希望日までに届けられない場合、分納などの代案を誰がまとめ、顧客と合意するのか。

「調整する」と書いただけでは、これらは何も決まりません。

私がここで業務と呼んでいるのは、顧客に約束した結果を届けるための、一連の仕事です。

その中には、作業の順序だけでなく、判断の条件、権限、責任、必要な情報が含まれます。

作業手順は、その業務を実行するための一部分です。

もちろん、現場の担当者は多くのことを知っています。

「この仕様なら、あの人に聞く」「この数量なら、先に製造へ相談する」といった経験も持っています。

その知識は、業務を設計するうえで欠かせません。

しかし、各担当者が自分の持ち場を説明するだけで、会社全体の業務が自動的に明らかになるわけではありません。

部門を越えた仕事を設計する責任まで、現場への記入依頼で済ませることはできないのです。

それでも、棚卸の様式には「所要時間」「困りごと」「改善要望」といった欄が用意されています。

すると、議論は自然に、今の作業をどう楽にするかに向かいます。

注文書の入力に時間がかかるので、自動で読み取ってほしい。

メールへの転記が面倒なので、連携してほしい。

納期確認の電話が多いので、画面で分かるようにしてほしい。

どれも、担当者にとっては切実な要望です。

しかし、ここで一度、立ち止まる必要があります。

私たちは、今の作業を機械化するためにDXを始めたのでしょうか。

入力を自動化すれば、注文情報は早く届くようになります。

確認依頼も素早く送れるでしょう。

けれども、受注してよい条件や、優先順位を決める権限が曖昧なままであれば、その先で仕事は止まります。

依頼が速く届くようになっても、会社として答えを出せるようになったとは限りません。

さらに、新しい顧客との取引では、今まで顧客側が引き受けてくれていた調整を、自社で担う必要があるかもしれません。

従来の手順には、その仕事自体が載っていない可能性があります。

現在ある作業をいくら詳しく記録しても、これから必要になる仕事が抜けたままでは、新しい市場への準備にはならないのです。

必要なのは、まず、この注文にどう応えたいかを話すことです。

顧客が必要としている数量と期日は、どこまで変更できるのか。

造可能という回答に、どのような条件が付いているのか。

既存顧客への約束を守りながら提示できる案は何か。

こうした問いを部門の間で交わしていくと、誰も全体を判断できていない箇所や、判断に必要な情報がそろわない箇所が見えてきます。

そこで初めて、仕事のつながりを設計し、その仕事を正しく遂行するために、どの情報を記録し、共有し、デジタルで扱えるようにするかを考えられます。

システムへの要求も、「今の入力を楽にしてほしい」から、「会社として実現可能な納期を判断できるようにしたい」へ変わっていくでしょう。

作業手順の文書化には、教育や引き継ぎなどの用途があります。

単純な機械化にも、効果が期待できる場面はあります。

ただし、それらを積み重ねていることと、新しい市場で顧客への約束を果たせる会社をつくっていることは、区別しなければなりません。

分科会の机に並んだ業務一覧を、もう一度見てください。

そこには、担当者が何をしているかが書かれています。


では、会社として何を約束でき、その約束をどう果たすかは、どこに書かれているでしょうか。

次回は、経営が「全国展開」という明確な意思を示しているのに、なぜDX活動が現状の棚卸へ向かってしまうのかを考えます。

合同会社タッチコア

小西一有


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