(はじめに)ITの役割を“戦術”から“戦略”へ
前回、前々回の投稿では、ITが単なる機械化や省力化のツールにとどまるべきではなく、ビジネスプロセスを介して経営戦略を現場に実装する手段であるという本質的な視座を示してきました。
3回連載の最終回は「ITが戦略の実装手段になる」とはどういうことか、どのように企業はそれを実現していけばよいのかを解説します。
戦略実行は“プロセスとシステムの設計”で決まる
企業戦略は、会議室で生まれます。しかし、現場でそれが具体的な行動として展開されなければ意味がありません。つまり、戦略は“言葉”ではなく“仕組み”に落とし込まれる必要があります。
その仕組みこそが、
・再設計されたビジネスプロセス
・それを支えるITシステム
の2つなのです。
▶ 例:顧客中心戦略を実装するには
「顧客中心」を掲げるなら、顧客からの声を収集・分析し、商品開発やサービス改善につなげるプロセスが必要になります。これを支えるCRM(顧客管理)システムやBIツールの導入は戦略の実装手段であり、単なるIT導入ではありません。
日本企業に欠けている「設計」の視点
日本企業では、業務改善やIT導入の場面で「現場の声」を重視しすぎるあまり、プロセスやシステムを“設計”するという発想が弱い傾向があります。
現場は“改善”のプロかもしれませんが、“設計”のプロではありません。
ここに、外部の視点――とくにプロセスアーキテクトや外部CIOのような役割が必要とされる理由があります。
外部CIOという選択肢:経営とITの翻訳者
外部CIO(Chief Information Officer)とは、企業の経営戦略とIT戦略を橋渡しするエグゼクティブ役割を外部から担うものです。特に中堅・中小企業や変革期にある組織にとっては、以下のような機能を果たします。
・経営者の言葉をビジネスプロセスに翻訳する
・業務設計とIT要件の整合性を取る
・部門を超えて全体最適を設計する
・IT投資の意思決定をファクトベースで支援する
外部CIOはITベンダーではなく、経営視点を持った変革の伴走者です。
ITを“導入”ではなく“組み込む”
「導入」は物理的にシステムを入れる作業にすぎません。 重要なのは、それがどんな目的で、どんな仕組みに組み込まれ、どんな行動を引き出すのかという「設計」と「運用」の視点です。
IT=戦略を走らせる“装置”
たとえば、KPIに基づいて営業行動を可視化し、マネジメントがリアルタイムに判断できる環境を整える――これこそが「ITが戦略を動かす」状態です。
単なる入力・出力の自動化ではなく、「どのように意思決定が行われるか」「どのような行動を強化するか」に直結するよう設計されてこそ、ITの真価が発揮されます。
今後、企業に求められる視座とは?
多くの企業が、「ITを入れたのに成果が出ない」と嘆きます。
その原因は、戦略・プロセス・ITがバラバラに扱われているからです。
今後は以下の視座が求められます:
・ITを戦略の“実行装置”として設計する視点
・プロセス思考とデータ活用を前提とした業務設計
・経営視点でITを統合できるリーダー(CIO、CDXO)の存在
・部分最適ではなく、全体最適の設計志向
これらを備えることで、ITは単なる省力化装置から、“競争力を創出するエンジン”へと進化します。
(まとめ)「ITを使うのではなく、戦略を走らせよ」
3回の連載を通じて、ITを「何かの作業を楽にする装置」と捉えるのではなく、経営戦略を現場で確実に実行するための“仕組み”として再定義する必要性をお伝えしました。
『ITの価値は、「使い方」にあるのではなく、「何のために使うか」にある』
IT投資の成功は、「導入」ではなく「設計と運用」によって決まります。
戦略、プロセス、ITを一体で設計できる企業こそが、変化の時代に生き残り、飛躍していくのです。
第1回:「ITとは“機械化ツール”なのか?」― 真の価値を再考する
第2回:「ビジネスプロセスという概念が、なぜ重要なのか」
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合同会社タッチコア 代表 小西一有