TouchCore Blog | 【連載】業務改革: 第3回 調整コストを生む業務構造 〜“暗黙知”に依存した仕事の危うさ〜
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【連載】業務改革: 第3回 調整コストを生む業務構造 〜“暗黙知”に依存した仕事の危うさ〜

調整コストの正体を明らかにしてきた前回までの内容を踏まえ、今回は「調整コストがなぜ発生するのか」、その“構造的な原因”に焦点を当てます。

実は、調整は偶発的に生まれるものではありません。多くの場合、→調整を前提とした業務構造が存在しており、そこから必然的にコストが発生している←のです。問題は、誰もそれを“構造”として認識できていないことです。


なぜ調整が必要なのか?
仕事には「誰が・いつ・どこで・何をするか」が明確でなければなりません。しかし、多くの現場では、業務の境界線が曖昧なまま進んでいます。
たとえば、営業が契約を取ってきた後に「この契約内容で本当に納品できるのか?」と開発側が懸念を持つ。逆に開発が納品準備を進めていても「この仕様は本当に顧客が望んでいるのか?」と営業が不安を感じる。こうした不確実性は、業務の役割設計や責任分界点が曖昧なために発生しています。
曖昧さがあると、当然ながら関係者同士の“確認”が発生します。ここで、調整が始まるのです。
つまり、調整は「曖昧な業務構造の副産物」であり、属人化や非効率の原因なのです。

調整前提で設計された業務の怖さ

多くの組織では、「調整が必要なこと」を前提に業務が設計されています。たとえば、曖昧な業務指示を出して「不明点があれば個別に確認してください」と言う運用。業務マニュアルの末尾に「最終的な判断は上司に確認のこと」と書かれているのもそうです。
このように、“調整で補う設計”が定着してしまっているため、調整の回数や手間が減らない。しかも、調整に関わる時間は予算に計上されることもなく、KPIにも反映されません。だから、「見えないまま温存される」のです。
さらに問題なのは、これが“仕方のないこと”として受け入れられている点です。
•「確認に時間がかかるのは当然」
•「稟議は通すのが仕事のうち」
•「他部門との調整は苦労するもの」
このような前提の上に業務が成立している限り、どんなに表面的な業務改善をしても、根本的な効率化には繋がりません。

調整が積み上がると「遅延」と「属人化」が生まれる
調整コストが慢性化すると、最も影響を受けるのは「スピード」と「再現性」です。
まず、業務スピードは間違いなく遅くなります。決定が遅れる、着手が遅れる、確認が終わらない――いずれも調整の副作用です。特に顧客対応が必要な部門では、「社内の調整で時間がかかってしまい、顧客への回答が遅れる」という現象が頻繁に起こります。
また、調整は往々にして「経験のある人」や「顔の利く人」が担うため、属人化が進行します。結果として、その人がいないと回らないプロセスが生まれ、業務の再現性・継承性が損なわれます。

業務構造の盲点:「タテ割り」と「経験知依存」
調整コストを生む主な業務構造には、以下の2つがあります。
1. タテ割り組織による断絶
部門ごとに業務が独立し、情報が断絶している場合、業務の“つなぎ目”で大量の調整が発生します。各部門が自分たちの最適化だけを目指しており、全体プロセスの一貫性が損なわれている。
このような状況では、「後工程に配慮した業務設計」がなされておらず、前工程からの情報不足や形式不備を後工程が“補完”するという状態が常態化します。
2. 経験知と暗黙知への依存
「Aさんに聞けば分かる」「この処理はBさんしかできない」といった属人的なオペレーションは、調整コストの温床です。これらはマニュアル化されていない“暗黙知”で運用されており、新しい人が入るたびに調整が増えます。
さらに、この状況に慣れてしまった現場では、「調整は必要なもの」「情報が足りなければ人に聞けばいい」といった考えが定着し、問題意識が薄れていくのです

ビジネスプロセスの視点を持つ
超えて、価値の流れを一連の活動として捉える考え方です。
例えば、顧客に商品を届けるというゴールがあるとします。そこには営業・契約・受注処理・製造・出荷・請求・サポートといった一連の活動があります。本来、これらは「ひとつの流れ」として設計されるべきなのです。
しかし、現実の多くの組織では、この流れが「部門単位」に分割され、それぞれが“自己流”で運用しているため、プロセスとしての連続性が失われます。そして、つなぎ目で“補完”が必要になり、そこに調整が生まれます。 


モデルで構造を可視化する
ビジネスプロセスという視点を持つだけでは不十分です。次に重要なのが、「プロセスを構造として表現する」ことです。すなわち『モデリング(可視化と設計)』です。
モデリングとは、業務を単なる作業リストではなく、「流れ」や「構造」「責任の所在」といった視点から明示的に表現することです。
具体的には以下のような項目を整理していきます。
•業務の開始条件(トリガー)
•担当者とその役割
•使用する情報とシステム
•成果物(アウトプット)
•業務の終了条件
このような業務構造をモデル(業務マップ)として明文化することで、調整が発生するポイントを事前に把握し、削減できる余地が見えてきます。

頑張る」から「設計する」へ
重要なのは、調整を「現場が頑張って乗り越えるもの」として放置しないことです。調整を減らすには、努力ではなく設計が必要なのです。
•誰が何をするのか
•どこで情報を受け渡すのか
•何を持って完了とするのか
これらを構造的に定義し、業務の“余白”を意図的に減らしていく。そうすれば、調整の必要性そのものが消えていきます。

次回予告:モデリングで調整を減らす設計思考

調整コストは業務構造の「曖昧さ」から生まれる。そして、その曖昧さをなくすには「見える化=モデリング」が必要である。ここまでが今回の結論です。
【第4回】では、実際にモデリングによって調整を減らす方法や、設計の具体的なアプローチを解説します。


第1回:業務改革の「大いなる誤解」〜無駄取りだけでは変わらない〜

第2回:調整コストとは何か?〜見えないコストの正体〜

合同会社タッチコア 代表 小西一有