TouchCore Blog | 第3回:ERP導入の落とし穴 ― なぜ日本企業は失敗するのか
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第3回:ERP導入の落とし穴 ― なぜ日本企業は失敗するのか

「当社独自のやり方」への固執

日本企業がERP導入で最初に直面するのは、「うちのやり方にシステムを合わせてほしい」という抵抗です。
ERPは各ベンダーが長年の研究と世界のベストプラクティスを凝縮した「標準業務モデル」に基づいています。つまり「業務を標準モデルに合わせる」ことが前提です。しかし日本企業はこれを受け入れず、add-on(アドオン)と呼ばれるカスタマイズを大量に行い、ERPを“自社仕様”に改造してしまいます。
その結果、
• システムが複雑化してメンテナンス不能になる
• 標準モデルとの互換性が壊れ、アップデートができなくなる
• ERPの持つ効率性や透明性の価値が失われる
という事態に陥ります。ERPの失敗の多くは、この「独自性への過剰な固執」が原因です。


ベンダー任せの姿勢

もうひとつの失敗要因は、ERP導入を「ベンダーに丸投げ」することです。
ERPは単なるシステムではなく、全社業務の再設計プロジェクトです。にもかかわらず、「システムのことはベンダーに任せれば良い」と考え、業務の見直しを怠る企業が多いのです。
その結果、
• 業務部門が主体的に参加せず、システムが現場に合わない
• 導入後に「こんなはずではなかった」と不満が噴出する
• 結局、現場はExcelや旧来のやり方に戻り、ERPは形骸化する
ERP導入の成否は、ベンダーではなく利用者企業の姿勢にかかっていることを忘れてはなりません。


 経営と現場の断絶

ERP導入は、経営層にとっては「経営基盤を整備する戦略投資」であり、現場にとっては「新しい操作画面」程度にしか見えない。この意識の断絶も、大きな失敗要因です。
経営層は「リアルタイムで経営情報が見えるようになる」と期待しますが、現場は「入力作業が増えただけ」と不満を持ちます。このギャップを埋めるには、業務モデリングを通じて“何のためにこの業務をこう変えるのか”を共有する対話が不可欠です。


現行業務を“写経”するだけの誤解

日本企業のERP導入でありがちな誤解が「現行業務をそのままERPに置き換えればいい」という発想です。
しかしERPの目的は、現行業務を電子化することではなく、全社最適の業務プロセスに再設計することです。現行業務をそのまま移すだけでは、非効率や矛盾もそのままERPに移植してしまい、システムの力は発揮されません。
ERP導入は、「現行業務の延命」ではなく「業務構造の刷新」でなければならないのです。


失敗を避けるために

では、日本企業がERP導入で失敗しないためには何が必要でしょうか。
1. 「当社独自」を一度疑う
 差別化要素でないものは標準モデルに合わせる勇気が必要です。
2. 業務モデリングを行う
 現行のやり方を“モデル”として描き出し、標準モデルとのギャップを把握することが不可欠です。
3. 経営と現場をつなぐ対話
 経営層の期待と現場の業務をつなぎ、「なぜこの改革が必要なのか」を理解させる。
4. ベンダー任せにしない
 主体は利用者企業。ベンダーは助言者に過ぎない。
5. 改革を“痛み”として受け入れる
 ERPは便利ツールではなく「業務改革のための基盤」。痛みを避ければ成果も出ない。


まとめ

ERP導入の失敗は、ERPのせいではありません。
• 「独自性」に固執しすぎる文化
• ベンダー任せの姿勢
• 経営と現場の断絶
• 業務モデリングを怠る姿勢
これらが原因で、ERPの価値を自ら潰しているのです。
ERP導入とは、自社の業務を標準化し、経営と現場を接続する大改革。それを理解し、覚悟をもって取り組む企業だけが、ERPを本当の経営基盤として活かすことができるのです。


次回予告

第4回では「業務モデリングとは何か」を掘り下げます。なぜモデリングが必要なのか、どうやって業務を構造化すべきなのかを丁寧にお話しします。

合同会社タッチコア 小西一有


【連載】

第1回:ERPとは何か?ー単なるシステムではない経営基盤ERP

第2回:業務プロセスとERPー部門最適から全社最適へ