アドバイザリーサービスを提供する者には、基礎的な経営知識やテクノロジーの理解が欠かせません。会計やファイナンス、戦略論の素養はもちろん、ITやデジタルの仕組みを正しく理解していることは大前提です。
しかし、知識やスキル以上に重要なものがあります。それは 「恣意的な情報を提供しない」という姿勢 です。経営者はアドバイザーの言葉を参考に意思決定を行います。その情報が偏っていれば、経営判断もまた誤った方向に誘導されてしまいます。
アドバイザーに求められる最大の資質は、知識よりも誠実さ、情報を扱う倫理観なのです。
客観的で公正な情報を扱うために
客観性と公正さを確保するには、少なくとも2つの条件があります。
・情報源が客観的であること
信頼できる調査や一次情報に基づくこと。特定ベンダーの宣伝資料や、都合の良いデータを切り取ることは論外です。
・アドバイス以外の収益源を持たないこと
開発案件や製品販売を狙うアドバイザーは、どうしても助言を恣意的にしてしまいます。特にシステム開発は金額が大きく、利益も大きいため、「無料で情報を提供し、最終的に開発を受注する」ケースが後を絶ちません。こうした構造自体が、アドバイザーの公正さを蝕みます
この二つが欠けていると、いくら知識があっても真に信頼できるアドバイザーとは言えません と、いくら知識があっても真に信頼できるアドバイザーとは言えません。
「無料情報」に潜む罠
日本では「情報は無料で得られるもの」という感覚が根強くあります。しかし本来、客観的で公正な情報にはコストがかかります。なぜなら、アドバイスそのもの以外に収益を持たないからです。
欧米ではこれは常識です。公正な情報を得るためには正当な対価を支払う。それが経営の質を支える文化となっています。日本企業が誤情報に踊らされやすいのは、「無料情報」に安易に依存する悪習があるからです。
倫理観という資質
アドバイザーの資質を一言で表すなら「倫理観」と言えるでしょう。
・自分に都合のよい解釈をしない
・特定の利害関係に左右されない
・短期的な利益よりもクライアントの長期的な利益を優先する
こうした姿勢なしに、いくら知識や経験が豊富でも、アドバイザーとして信頼に足る存在にはなれません。
実例:情報が歪められた結果
ある企業で、システム刷新のために複数のアドバイザー候補が提案を行いました。その中で一社は「最新のクラウドサービスに移行すれば全て解決する」と強調。しかし後で分かったのは、そのアドバイザーが特定のクラウドベンダーの販売代理を兼ねていたことでした。
結果、その企業は大きな投資をしたものの、期待した効果は得られず、再び別の改革に取り組む羽目になりました。
この失敗の原因は「知識の不足」ではなく「恣意的な情報に基づく意思決定」でした。
皆さんへ
あなたが相談しているアドバイザーは、本当に「客観的で公正」でしょうか。
無料で提供される情報の背後に、何らかの収益構造が潜んでいないでしょうか。
アドバイザーに最も必要なのは知識や経験ではなく、「誠実に情報を扱う姿勢」です。
この資質を欠いた助言は、必ず経営を誤った方向へ導いてしまいます。
明日(第4回)は、「アドバイザリーが残すもの ― 社内に根づく『考える力』」と題し、成果物ではなく文化として残す価値について掘り下げます。
合同会社タッチコア 小西一有
第1回:なぜ「コンサルティング」ではなく「アドバイザリー」なのか
第2回:経営における「情報」の特性とアドバイザーの役割