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第2回:意図が伝わらない組織の構造

経営の意図は、なぜ現場で意味を失うのか

「何度説明しても現場が理解してくれない」「方針は伝えたのに行動が変わらない」…。多くの経営者が同じ悩みを抱えています。
しかし、これは単なる“伝達の問題”ではありません。問題の本質は、経営の意図を受け止める構造が組織の中に存在しないことにあります。
経営者がどれほど明快なビジョンを語っても、それを理解するための「構造の言語」が組織に欠けていれば、メッセージは途中で意味を変え、現場では「自分ごと」として機能しなくなります。
この断絶を埋める鍵が、ビジネスアーキテクチャ(Business Architecture)です。

戦略単位と業務単位のズレ

経営が考える戦略の単位は、「市場」「顧客」「価値」「事業モデル」といった外向きの要素です。
一方、現場が扱うのは「部門」「工程」「システム」「帳票」といった内向きの単位です。
この両者は似て非なる構造です。
経営が“顧客価値”を軸に戦略を語っても、現場は“作業手順”が主語になる──この構造的なズレこそ、意図が伝わらない最大の理由です。
だからこそ、経営の意図を業務の構造に翻訳する作業が必要なのです。
それを担うのが、ビジネスアーキテクチャの役割です。

ビジネスアーキテクチャとは何か

ビジネスアーキテクチャとは、経営戦略を業務構造に翻訳する設計図のことです。
単なる業務フローではなく、「どんな価値を、どんな活動で、どのような仕組みで実現するか」を階層的に整理した“構造の地図”です。
この構造は主に3層で構成されます。
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価値構造:企業が顧客に提供する価値の種類(例:スピード、信頼、体験)
機能構造:価値を実現する業務機能(例:商品設計、営業支援、サービス提供)
プロセス構造:機能を支える具体的な業務の流れ
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この3層を一貫して設計することで、経営と現場の間に“構造的な翻訳機構”が生まれます。

翻訳の不在が生む「伝言ゲーム」

多くの企業では、経営の意図が「報連相」や「会議」を通じて現場へ伝えられます。
しかしその過程で、「顧客価値の再定義」というメッセージは、「営業を強化せよ」「KPIを見直せ」といった部門最適の指示に変質してしまいます。
これは単なる情報伝達の問題ではなく、構造的な翻訳が行われていないために起きる現象です。
意図を伝えるだけでは足りません。意図を「構造で意味づける」仕組みが必要なのです。

翻訳者=ビジネスアーキテクトの役割

経営の意図を現場に翻訳するのは、ミドルマネジメントと業務設計者(ビジネスアーキテクト)です。
彼らは経営の意図を理解し、それを業務構造の言語──つまりビジネスアーキテクチャ──に変換します。
経営が語る「顧客価値」を、どの活動で支え、どの部署が担い、どの情報が流れるのかを設計する。
現場が自分の業務を“価値の一部”として理解できるようにすることで、「伝わる・動く・定着する」を同時に実現できます。

構造を共有する組織は、意図が届く

ビジネスアーキテクチャを導入した組織では、経営と現場の間に共通の構造言語が生まれます。
経営は戦略を構造で語り、現場は業務を構造で理解する。
その結果、議論が「やる・やらない」から「どこを変えるか」に変わります。
言葉の巧みさではなく、構造的理解によって意図が伝わる組織が生まれるのです。

「戦略を落とす」と言うと難しそうですが、本当はもっとシンプルです。
戦略を「価値 → 機能 → プロセス」の順に具体化していくだけで、現場は自然と動けるようになります


合同会社タッチコア 小西一有

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