
中小企業の経営者と話していると、「気づけば現場の仕事ばかりしてしまうんです」という声を本当によく聞きます。
トラブル対応、クレーム処理、営業、見積り、社内調整。
これらの仕事は確かに重要で、社長がやれば一番早く片付きます。
しかし、これこそが“未来づくりの時間が奪われる”最大の理由でもあります。
今、この瞬間に必要な仕事ばかりが積み重なると、3年後・5年後の会社の姿を考える時間が、どんどん押しのけられてしまうのです。
■ なぜ経営者は「現場の仕事」に吸い寄せられるのか?
これは、性格の問題ではありません、実は構造的な理由があります。
① 現場の仕事の方が成果が“すぐに見える”
クレームを処理すればお客様が納得し、営業に行けば契約の可能性が生まれ、見積りを出せば進捗が生まれる。
「手を動かせば結果が出る」
これは強烈な快感をもたらします。
② 未来の仕事は“手応えが見えない”
戦略を考えても、すぐに売上が上がるわけではありません。
考えた成果は3ヶ月後、半年後にじわじわ現れます。
だから人間はどうしても、成果がすぐに見える仕事に流されてしまうのです。
③ 誰も“未来の仕事のやり方”を教えてくれない
現場の仕事は教えてくれる人がいます。
しかし、未来を描く技法(戦略・構造設計)を教えてくれる人はほとんどいません。
結果として、経営者が本来やるべき「未来をつくる仕事」より、目の前の問題が優先されるという状態に陥ります。
■ 社長の仕事は「現場を回すこと」ではなく「未来をつくること」
ここで、一度立ち止まって考えてみましょう。
“経営者の本当の仕事とは何か?”
それは―会社の未来を設計し、実装することです。
もっと言えば、“3〜5年後に会社をどうしたいのかを決める人”が経営者です。
・どんな市場で戦うのか
・どんなお客様に価値を届けるのか
・何を強みにするのか
・どこに集中し、何をやめるのか
・どんな業務構造で戦うのか
これらはすべて“未来の話”であり、現場の仕事ではありません。
逆に言えば、未来の仕事に向き合わない限り、会社は現状の延長線上から抜け出せないのです。
■ 戦略とは「未来をつくるための地図」である
戦略という言葉は難しく感じられがちですが、本質はとてもシンプルです。
戦略とは、未来をつくるための“地図”です。
目的地(ありたい姿)を決めて、そこに向かうための道筋を選ぶ作業。
・行く市場
・出会う顧客
・提供する価値
・競争しない領域
・集中すべき資源の配分
これらを決めるのが戦略です。
つまり戦略とは、「今の延長線では辿り着けない未来」を、現実に近づけるための設計図なのです。
■ 戦略がない会社は、毎日が“バラバラの積み木”
戦略がないまま経営を続けると、日々の意思決定は次のようになります。
・急ぎの仕事が来たから対応する
・問題が起きたから火消しをする
・お客様に言われたから機能を追加する
・社員に頼まれたから改善する
一つひとつは正しい判断に見えます。しかし、それらをつなぐ“目指す未来”がないため、Google Mapで目的地を入力しないまま車を走らせているような状態になります。
「 毎日忙しいのに、前に進んでいる実感がない。」
「全部やっているのに、成果が積み上がらない。」
これは、戦略が欠けているときに必ず起きる現象です。
■ 現場の仕事は“未来をつくるため”に存在している
経営者が現場の仕事から完全に離れる必要はありません。現場は現実そのものです。
顧客の声も、改善のヒントも、現場にあります。
しかし、もっと大切なのは次の視点です。
現場の仕事は、未来をつくるために存在している。未来をつくるのは、経営者にしかできない。
現場に行くことは悪くありません。
ただし 経営者がずっと現場で忙殺されている状態 は、会社が前に進むための時間を奪ってしまいます。
■ 経営者が“未来の仕事”に向き合うと何が変わるか?
未来に向き合う経営者は、日々の判断が劇的に変わります。
・「どの顧客に集中すべきか」が明確になる
・やらなくてよい仕事が減る(負担が軽くなる)
・投資すべき領域と、削る領域がはっきりする
・社員が同じ方向を向き始める
・会社の“成長ルート”が見え始める
逆に未来を考えない経営者は、毎日忙しいのに成果が積み上がらず、問題が永遠に繰り返されてしまいます。
■ 次回は「戦略と小手先の違い」を“ひと目で分かる形”に
第4回では、ここまで語ってきた“戦略と現象改善の違い”を、分かり易くに構造化して可視化します。
小手先の改善と戦略の決定的な違い
・IT投資が戦略にならない理由
・戦略的意思決定が会社の未来を左右する仕組み
・「やらないことを決める」重要性
視覚的に理解できるように、シンプルで分かりやすい図解のような文章でお届けします。
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合同会社タッチコア 小西一有
第1回:第1回:経営者が抱える“見えない疲れ”と、戦略が語られなくなった理由
第2回:小手先の改善では会社が変わらない理由ー「見える現象」と「見えない構造」