TouchCore Blog | 第3回:ITベンダーが“本来の要件定義”を担えない構造的理由―ベンダー依存の限界と経営が理解すべき役割分
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第3回:ITベンダーが“本来の要件定義”を担えない構造的理由―ベンダー依存の限界と経営が理解すべき役割分

日本企業では「長年付き合いのあるITベンダーが一番理解しているから」という理由で、要件定義をベンダーに委ねることを多く見受けます。

しかし、この発想は戦略的IT投資という観点から見ると、きわめて危ういものです。
なぜなら、どれほど優秀なITベンダーであっても、“本来の要件定義”を担うことは構造上できないためです。
ここでは、経営者が誤解しがちなポイントを整理し、なぜ要件定義をベンダー依存すると企業は変われないのか、その理由を明らかにします。

■ベンダーは「経営戦略に責任を負う立場」ではありません

経営の意思決定は、企業の将来を左右する重大な責任を伴います。
その責任は、外部事業者であるベンダーには負えません。
そのため、ベンダーが要件定義をまとめると、どうしても
•現場の業務課題
•操作性向上の要望
•パッケージの調整箇所
•追加機能の希望
といった“部分改善”のリストになります。
これはベンダーが悪いのではなく、そもそも経営の意志を扱う立場ではないためです。
いくら丁寧なヒアリングをしても、「企業としてどこに向かうべきか」という戦略的視点は、要件として浮かび上がりません。

■ベンダーは「現場要望の最大公約数」を集める契約構造になっています

一般的な要件定義は、現場ヒアリングが中心です。
これは契約上、「現場要望を正確に拾う」ことを求められているためであり、ベンダーとしては正しい行動です。
しかし、ここに大きな限界があります。
•現場の要望は“今の業務”を前提にしている
•戦略的な再設計は現場からは出てこない
•変化を伴う要件は現場が避ける傾向がある
そのため、現場起点の要件定義は、必然的に“現状維持に最適化された要件”になります。
現場調整の積み上げでは、戦略実装型の要件にはなりません。

■ベンダーのビジネスモデルは「機能が増えるほど収益が増える」構造です

経営者が最も誤解しやすい点がここです。
システム開発というビジネスは、
•画面が増える
•改修箇所が増える
•テスト量が増える
•開発期間が延びる
ことで売上が増える構造になっています。
したがって、
業務構造が複雑な企業ほど、開発量は増え、ITベンダーの売上は増えるのです。
もちろん、これは自然な産業構造であって、良い悪いの話ではありません。
しかし、経営として理解しておくべきことはただ一つです。
開発量が増えるほどコストは膨らみますが、それが会社の変革に直結するとは限りません。
むしろ、本当に必要な仕組みほど“少ない機能で強い効果を出す設計”が求められます。
この視点は、ベンダー側のビジネス構造とは一致しません。

■ベンダーは「業務そのものの再設計」を担う立場にありません

本来の要件定義とは、業務の構造そのものを再定義する行為 です。
しかし、この「業務構造の再設計」は、外部ベンダーには構造的に担えません。
なぜなら業務構造の設計には、
•組織の権限
•役割分担
•経営判断の優先順位
•部門間調整
•事業戦略との整合性
などの“組織内部の意思決定”が深く関わっており、外部企業が介入できる領域ではないからです。
つまり、ベンダーが本来の要件定義を担えないのは、能力ではなく、役割構造の問題 です。

■「ベンダーが一番理解している」という期待は半分正しく、半分誤りです

経営者の方がよく口にする言葉があります。
「うちのことを一番理解しているのは、長年付き合っているベンダーだ」
これには真実と誤解が混ざっています。
•日常運用や現行業務について
→ ベンダーが最も詳しい(真実)
•将来あるべき企業構造や、戦略実装方法について
→ ベンダーは役割上踏み込めない(誤解)
つまり、
“現状維持の理解”には長けているが、“未来の設計”は構造的に担えない。
この点を誤解したまま要件定義を任せてしまうと、企業のIT投資は永遠に「整理整頓」と「部分改善」に留まってしまいます。

■外部CIOという“第三の方法”が企業に必要とされています

では、誰が“本来の要件定義”を担うべきなのでしょうか。
経営の意志を扱い、業務構造と情報構造を論理的に設計し、情シスや業務部門を束ねて未来を描く、この役割は、既存の枠組みでは担い手がいません。
そこで、欧米では一般化し、日本でも増え始めているのが外部CIO というアプローチです。
外部CIOは、
•経営の意志の構造化
•戦略と業務・情報の一貫設計
•情シス・業務部門との伴走支援
•IT投資の全体最適化
などを担い、“未来を設計する知性”を企業に注入します。
タッチコア
は、この外部CIOとして企業の内側に入り、要件定義の在り方そのものを再構築しています。

■まとめ:ベンダーを責める必要はありません。役割を正しく理解するだけで道は開けます

要件定義が機能しない最大の原因は、
ベンダーに“未来設計”の役割を期待してしまう誤解にあります。
ベンダーは「つくる」プロです。しかし「未来をデザインする」役割ではありません。
情シスもベンダーも悪くありません。単に役割が違うだけです。
経営が理解すべきことは、
“未来を設計できる役割を組織に用意することこそ、戦略的IT投資の第一歩である”
この一点に尽きます。


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合同会社タッチコア 小西一有

第1回:いま日本で行われている「要件定義」は、要件定義ではないー情シスがなぜ疲弊し、ベンダーがなぜ“ユーザー要望書”を量産するのか

第2回:本来の要件定義とは“経営の意志の構造化”ー戦略を業務と情報に落とし込むための実務的アーキテクチャ思考