第3回:なぜ業務モデリングは「専門家の仕事」になってしまうのか―「業務モデリング」が日本で活用されない理由③

業務モデリングがうまく機能しない現場を見ていると、ある共通点に気づきます。
それは、業務モデリングが「一部の専門家の仕事」になっているという点です。
エンタープライズアーキテクチャ(EA)担当、企画部門、あるいは外部コンサルタント。
彼らが業務モデルを描き、現場はヒアリングに応じます。モデル完成後、説明会が開かれ、「共有」されます。しかし、そのモデルが日々の業務判断に使われることはほとんどありません。
なぜこのような構図が生まれるのでしょうか。
理由の一つは、日本企業における役割分担の考え方にあります。
日本の組織では、「考える人」と「実行する人」が暗黙のうちに分けられてきました。
業務を設計するのは本社や企画部門の役割であり、現場は与えられた業務を誠実に回す存在とされてきました。
この分業構造の中では、業務モデリングは必然的に“上流の仕事”になります。
しかし、業務モデリングの本質は設計図を描くことではありません。
「どの業務を一つと見なすのか」「どこで業務を分けるのか」「どこまでを標準とし、どこからを例外とするのか」。これらはすべて判断であり、意思決定です。
その判断を、現場を離れた専門家だけで行えば、モデルは現場の実感から乖離します。
逆に、現場が関わらない限り、モデルは「自分たちの業務」にはなりません。
にもかかわらず、日本企業では業務モデリングを「難しい専門技術」と位置づけることで、現場を意思決定から遠ざけてしまいます。
結果として、業務モデルは「立派だが使われない成果物」になります。
これはスキルの問題ではありません。
業務モデリングを「描く作業」と誤解していることが問題です。
本来、業務モデリングは合意形成のプロセスです。
業務の切り方に納得し、例外の扱いに合意し、「この形で進む」と決める。その過程こそが価値であり、図そのものは副産物にすぎません。
専門家が描いたモデルを“正解”として押し付けた瞬間、現場は思考をやめてしまいます。
そして業務モデリングは、また一つ形骸化します。
業務モデリングを組織に根付かせたいのであれば、
「誰が描くか」ではなく、「誰がそれを使って決めるのか」を問い直す必要があります。
次回は、業務モデリングの目的が曖昧なまま始められてしまう問題について掘り下げます。
合同会社タッチコア 小西一有
第1回:なぜ日本では「業務をモデルで考える」文化が育たなかったのか―「業務モデリング」が日本で活用されない理由①
第2回:業務モデリングが「説明資料」で終わってしまう理由―「業務モデリング」が日本で活用されない理由②