TouchCore Blog | BI 第3回:なぜ数字は信用されなくなるのか― データ定義とガバナンスの問題
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BI 第3回:なぜ数字は信用されなくなるのか― データ定義とガバナンスの問題

BIが機能しない企業において、最終的に必ず行き着く問題があります。それは、「数字が信用されない」という状態です。

ダッシュボードは存在する。データも揃っている。しかし会議では、「この数字は正しいのか?」という議論が繰り返される。

そして最終的には、「Excelで別途集計した数字の方が信頼できる」という結論に戻ってしまう。このような状況は、多くの企業で見られます。


なぜこのようなことが起きるのでしょうか。

その根本原因は、「データ定義が統一されていない」ことにあります。

第2回ではKPI設計の問題を取り上げましたが、KPIは必ずデータによって支えられます。

そして、そのデータがどのように定義されているかが曖昧であれば、どれだけKPIを整備しても意味を持ちません。

典型的な例が「売上」です。一見すると明確な指標のように思えますが、実際には複数の定義が存在します。

・受注ベースの売上

・出荷ベースの売上

・売上計上ベース(会計基準)の売上

これらはそれぞれ意味が異なり、用途も異なります。

しかし、多くの企業ではこれらが明確に区別されておらず、同じ「売上」という言葉で扱われています。

その結果、部門ごとに異なる数字が使われ、会議の場で混乱が生じます。


この問題は売上に限りません。顧客数、在庫、利益、受注など、ほぼすべての指標において同様の問題が発生します。

さらに深刻なのは、データの「粒度」や「識別子」の不統一です。例えば顧客を一つとっても、

・顧客IDがシステムごとに異なる

・法人単位と拠点単位が混在している

・グループ企業の扱いが統一されていない

といった問題が存在します。この状態では、顧客単位の分析は正しく行えません。

どれだけBIツールが優れていても、入力されているデータが一貫していなければ、正しい分析は不可能です。

ここで重要なのは、これらの問題は「データの問題」であると同時に、「業務の問題」であるという点です。

なぜなら、データは業務の結果として生成されるものだからです。

例えば、顧客の定義が業務プロセスの中で統一されていなければ、そのままデータにも反映されます。

また、業務の中で必要な情報が記録されていなければ、後から分析しようとしてもデータが存在しません。

つまり、データ定義の問題は、業務設計の問題そのものです。

このような状況を解決するために必要なのが、「データガバナンス」です。

データガバナンスとは、データの定義、管理、利用に関するルールと責任を明確にする仕組みです。

具体的には、以下のような要素が含まれます。

・指標やデータ項目の定義の明確化

・データの生成元と変換ルールの管理

・更新頻度や更新タイミングの統一

・データ品質の管理

・データの責任者(データオーナー)の明確化

特に重要なのは、「定義」と「責任」です。

まず定義については、「このデータは何を意味しているのか」を明確にする必要があります。例えば売上であれば、

・どの時点で計上されるのか

・どの取引が含まれるのか

・例外処理はどうするのか

といった点を明文化しなければなりません。

次に責任についてです。

データは誰のものでもない状態では管理されません。

各データには、それを定義し、品質を維持する責任者が必要です。これが「データオーナー」です。

多くの企業では、データはIT部門が管理するものと考えられています。

しかし、データの意味や定義はビジネス側にしか決めることができません。

したがって、データガバナンスはITではなく、ビジネス主導で設計されるべきものです。

ここまで見てくると明らかなように、BIにおける最大の課題は、ツールや分析手法ではなく、「データの意味をどう定義するか」という点にあります。

データが信用されない状態では、BIは決して使われません。

そして、データが信用されるためには、定義が統一され、責任が明確である必要があります。

BIを成功させるためには、まず「どの数字が正しいのか」を議論する必要があります。

これは一見地味で時間のかかる作業ですが、このプロセスを経ずにBIを導入しても、必ず失敗します。

言い換えれば、BI導入とはデータの可視化ではなく、「意味の統一」です。

この認識を持つことが、BI成功の前提条件となります。

次回は、ここまでの議論を踏まえ、「データモデル設計」がなぜBIの成否を決定づけるのかを解説します。データをどのような構造で持つかによって、分析の自由度と限界がどのように変わるのかを掘り下げます。

合同会社タッチコア 小西一有

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