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BI特別編:影響システムと情報システム ― KPIは絞らなければ機能しない

これまでの連載では、BIの本質が「意思決定の構造化」であること、そしてその前提として「意思決定そのものの設計」が必要であることをお話ししてきました。


今回はその議論をさらに一歩進め、実務上きわめて重要でありながら見落とされがちな論点、すなわち「KPIはなぜ絞らなければならないのか」という問題について考えてみたいと思います。

この問いを考えるうえで有効なのが、「情報システム」と「影響システム」という二つの視点です。

一般にBIは、情報システムの一部として理解されています。

情報システムとは、業務の結果として生まれるデータを記録し、それを整理し、可視化するための仕組みです。

そこでは、現在の状態を正確に把握することが主眼となります。

どれだけ売上が上がっているのか、どの顧客層が伸びているのか、どの地域の業績が低下しているのか。

こうした情報を迅速に、かつ正確に把握することは、確かに重要です。

しかし、経営の本質は「知ること」ではなく、「変えること」にあります。

売上を伸ばす、利益を改善する、顧客満足度を高める。

これらはいずれも、現状を把握するだけでは実現しません。

何らかの働きかけを行い、結果に変化をもたらす必要があります。

この「変えるための仕組み」を、本稿では影響システムと呼びます。

影響システムとは、業務や成果に対して意図的に変化を与えるための構造であり、経営そのものの核心に位置づけられるものです。

ここで重要なのは、結果は直接コントロールできないという事実です。

例えば「売上を上げる」という表現は日常的に使われますが、実際には売上という結果そのものを操作することはできません。

できるのは、商談数を増やす、受注率を改善する、客単価を引き上げるといった、原因側への働きかけに限られます。

したがって、経営とは本質的に、結果ではなく原因に対して影響を与える営みであると言えます。

そしてこの原因側の指標こそが、いわゆるCPI(先行指標)です。

CPIは現場の行動と直接結びついており、組織としてコントロール可能な対象です。

経営者が実際に操作しているのは、売上や利益といった結果指標ではなく、このCPIであると考えるべきでしょう。

この視点に立つと、KPIの扱い方について重要な示唆が得られます。

多くの企業では、「重要と思われる指標はすべて把握しておくべきだ」という発想のもと、KPIを増やす傾向があります。

しかし、このアプローチは影響システムの観点から見ると、本質的な問題を孕んでいます。

KPIが増えれば増えるほど、「どこに影響を与えるべきか」が見えにくくなるのです。

複数の指標が並列に並べられた状態では、それぞれの関係性や優先順位が曖昧になり、結果として意思決定は分散します。

どの指標も重要に見えるがゆえに、どの指標にも十分な注意が払われず、最終的には何も変わらないという状態に陥ります。

さらに言えば、人間の意思決定能力には限界があります。

複数の指標を同時に見ながら、それぞれに対して適切な判断と行動を行うことは、現実には極めて困難です。

多くの場合、同時に意識的に扱える指標はごく限られており、それを超えると判断は曖昧になり、行動は停止します。

この問題は、ダッシュボード設計において特に顕著に現れます。

情報を網羅的に提示しようとするあまり、多数のグラフや数値を一画面に詰め込んでしまう。

結果として、ユーザーは全体を眺めることはできても、具体的に何をすべきかが分からない状態になります。

つまり、情報システムとしては機能していても、影響システムとしては機能していないのです。

したがって、KPIは意図的に絞り込まなければなりません。

それは単に運用を簡単にするためではなく、影響を成立させるためです。

どの指標に働きかけるのかを明確にし、その指標が変化したときにどのような行動を取るのかを定義する。

この対応関係が明確でなければ、KPIは意味を持ちません。

この観点から見ると、ダッシュボードの設計原則も自ずと導かれます。

重要なのは、情報の網羅性ではなく、意思決定との結びつきです。

一つの画面は、一つの意思決定に対応しているべきであり、その画面を見れば何を判断し、どのように行動するのかが明確になる必要があります。

ここで改めて全体の構造を整理すると、意思決定はまずCPIに対する働きかけとして現れ、その結果として業務が変化し、データが生成されます。

そしてそのデータが情報システムによって可視化される。この流れの中で、影響システムは意思決定から業務に至る部分を担い、情報システムはデータの可視化を担います。

多くの企業では後者だけが整備され、前者が設計されていません。

その結果として、「見えるが変わらない」という状態が生まれます。

この状態を打破するためには、まずどこに影響を与えるのかを明確にし、そのための指標を絞り込むことが不可欠です。

結論として、KPIは多く設定すべきものではありません。

むしろ、影響を与えるべきポイントを明確にするために、意図的に削ぎ落とすべきものです。

BIは情報を並べるための装置ではなく、意思決定を動かすための装置です。

その本質を見誤らないことが、データ活用を成功に導くための最も重要な条件であると言えるでしょう。

合同会社タッチコア 小西一有

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