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DX・IT:第5回 DX・AI投資は、本当に経営力向上になっているのか

「無事に稼働しました」

数か月に及ぶDX・AIプロジェクトが終わり、本番稼働の日を迎えました。担当者もベンダーも、緊張しながら画面を見守ります。

大きな障害もなく業務が始まると、プロジェクト完了報告には、次の言葉が並びます。

「予定どおりに本番稼働しました」

「重大な障害は発生していません」

「要件どおりの機能を実装しました」

どれも、プロジェクトとして大切な成果です。納期、予算、品質を守り、システムを使える状態にした努力は、正当に評価されるべきです。

しかし、その報告をもって「DXは成功した」と結論づける前に、もう一つ確かめなければなりません。会社は、以前できなかった何を、できるようになったのでしょうか。

ベンダーの成果は「納品できるもの」で決まる

ベンダーが「導入成功」を成果にするのには、理由があります。ベンダーが責任を負うのは、契約で定められたシステムを、求められた品質と期限で提供することだからです。

通常、契約書や提案書に書かれるのは、機能、性能、画面、データ移行、教育、運用支援、納期、費用です。

顧客の状態を早く把握できる会社になることや、部門間の調整を減らすことまでは、受入条件になっていません。

これは、ベンダーが無責任だからではありません。

契約に書かれていない経営成果を、権限のない外部企業が保証することはできないのです。

会社の戦略を決めること。業務を変えること。誰が何を判断するかを定めること。評価制度や責任分担を変えること。

これらは、発注企業の経営そのものです

発注企業まで「導入成功」を成果にしてしまう

本当の問題は、ベンダーが導入を成果にすることではありません。

発注した企業まで、同じ物差しで成功を判断してしまうことです。

SFAを入れた。ERPが動いた。生成AIを全社員へ配った。利用者研修も終えた。

これらは「何を導入したか」の説明にはなります。

そのままでは、

「営業は顧客の変化を早く捉えられるようになったのか」

「経営は問題の兆候を損失の前に把握できるようになったのか」

「担当者が替わっても同じ水準で判断できるのか」には答えられません。

ベンダーのゴールと、経営のゴールは違います。

システムが動くことは、会社の能力が高まるための条件にはなっても、それだけで経営力向上を意味するわけではありません。

導入成功を最終成果にした瞬間、システムは完成しても、経営変革は未着手のまま終わります。

経営成果まで、ベンダーに委ねることはできない

企業側は、ときどきベンダーに「もっと業務を理解して提案してほしい」「経営成果まで考えてほしい」と求めます。

しかし、どれほど優秀なベンダーでも、会社に代わって決められないことがあります。

どの顧客に、どの価値を届けるのか。どの業務を変え、何をやめるのか。

どの情報を生み出し、誰が、いつ、何を判断するのか。

これらを決めないまま、技術だけを発注しても、ベンダーは機能へ落とし込む対象を持てません。


結果として、現行業務を少し便利にする提案へ寄っていきます。

ベンダーは、設計された業務や情報をIT・AIへ実装する重要なパートナーです。

しかし、「どのような会社になるのか」という問いの所有者は、最後まで発注企業でなければなりません。

現場の知を、業務、情報、判断、責任、IT・AIの構造に宿らせ、組織として再現可能な能力へ変える。

この設計を経営が引き受けて初めて、ベンダーの技術力は経営力向上へつながります。

受入条件を「動くか」から「できるか」へ

だから、受入条件も変えなければなりません。画面が表示されるか、計算結果が合うか、処理性能を満たすかに加えて、実際の業務が回るか、必要な情報が生まれるか、判断が変わるかを確認するのです。

システムテストで「動くか」を確かめ、業務受入で「使えるか」を確かめ、本番後には「会社としてできるようになったか」を確かめる。そこまでを一つの投資として捉える必要があります。

「予定どおり稼働した」は、プロジェクトの成功です。

「会社は何ができるようになったのか」は、経営の成功です。

二つの成功は、どちらも必要です。

ただし、前者だけでプロジェクトを閉じてはいけません。

本番稼働は、経営能力が高まったかを検証するスタートラインです。

ベンダーが「導入成功」を成果にするのは当然です。

問題は、発注企業まで、それを最終成果にしてしまうことです。

DX・AI投資を本当に経営力向上へ変える責任は、最後まで会社側に残ります。

ベンダーが納品できるのはシステムです。経営力まで納品することはできないのです。

合同会社タッチコア 小西一有

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