TouchCore Blog | 【連載】停滞するイノベーション:第4回 マネジメントが取るべき5つのアクション
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【連載】停滞するイノベーション:第4回 マネジメントが取るべき5つのアクション

「構造としての問題」に対処する勇気
ここまでの記事で、イノベーション部隊がプロダクトの“墓守”となり、次の挑戦に進めない背景として、
•リファクタリングや移管プロセスの不在
•部門間の価値観・評価軸のズレ
•対話・翻訳機能の欠如
といった構造的な課題があることを見てきました。
これらの課題は、現場の努力や気合だけでは解消できません。むしろマネジメントこそが、組織設計と運営の仕組みとして、この分断を解消する責任を担っています。
では具体的に、マネジメントはどのように振る舞うべきなのでしょうか?ここでは5つのアクションに整理してご紹介します。


【アクション1】役割と責任を再設計する

最も基本的で、かつ最も効果的なのが「誰がどこまで担うか」を明確に分けることです。
イノベーション部隊が「作ったら放置」、既存部隊が「受け取る準備がない」となるのは、そもそも引継ぎの前提条件や役割分担が曖昧だからです。
具体策:
•イノベーション部隊の責任範囲を「PoCと価値検証」までに明示
•既存部隊は「運用前提の受け入れ体制整備」を任務とする
•両者の間に「リファクタリング&移管設計チーム(中間機能)」を配置する
“作る人”と“回す人”の間に、「“渡す人”」を設計することが肝心です。

【アクション2】移管を正式なフェーズとして組み込む

移管やリファクタリングが「なんとなく」行われている組織では、移管が“曖昧な余白”になりがちです。これでは責任も工数も見積もれません。
具体策:
•プロジェクト計画書に「リファクタリング&移管フェーズ」を明示
•成果物として「運用設計書」「業務マニュアル」「問合せ体制」などを定義
•引継ぎ会議やチェックリストを定期開催
“実装”と“運用”の間に、「移管設計」を明確なプロセスに昇格させましょう。

【アクション3】KPIと評価指標を見直す
部門間の行動が噛み合わない背景には、評価基準の不整合があります。イノベーション部隊には「挑戦しろ」と言いながら、実は「障害ゼロで納品せよ」と暗黙の期待をかけていないでしょうか?
具体策:
•イノベーション部隊の評価に「移管完了数」「PoC移管率」などを含める
•既存部隊にも「移管受け入れの柔軟性・改善貢献度」を含める
•評価面談で「越境行動」や「他部門との連携」を重視する
「やった方がいい」ではなく、「やらないと評価されない」に変えることが大切です。

【アクション4】中立的な翻訳・対話機能を設ける

イノベーションと運用の分断は、単なる対話不足ではなく“共通言語の不在”によって生じます。その橋渡し役を意図的に設ける必要があります。
具体策:
•PMOやアーキテクト、業務設計ファシリテーターなどを配置
•両部門が共通で使う「移管レビュー会議」「運用設計レビュー」を定例化
•開発~運用のプロセスを“見える化”する図解資料・チェックリストの整備
両者の違いを尊重しながら、“意味が通じる場”を作ることがマネジメントの役割です。

【アクション5】人材のローテーションで文法を越境させる

対立ではなく“補完”と捉え直す視点

最終的には、個別の案件ではなく文化と構造の設計が組織力を左右します。そのためには、両部門の人材を意図的に“越境”させることが効果的です。
具体策:
•イノベーション部隊と運用部隊の間で半年~1年程度のローテーションを実施
•運用経験者が企画・PoC設計に参画するルートを整備
•「越境経験者」を育成・称賛し、組織文化にする
「相手の世界を知っている人」が1人でもいれば、対話は始まります。

「対話の場」と「中間組織」の必要性
この接続を設計する上で重要になるのが、以下のような仕組みです。
中立的な対話の場を設ける:
•例:移管レビュー会議、PoC成果報告会、事前すり合わせミーティング
•ファシリテーターやPMOなど、中立的な立場の人材が橋渡し役を担う
中間的な組織・機能を明確に設ける:
•例:トランジションPM、業務設計担当、DevOps推進チーム
•イノベーションと運用の“翻訳者”となる専門人材が必要


次回:次の挑戦を生み続ける組織とは?

最終回となる次回では、イノベーション部隊が「次のアイディア」に向かって再び走り出せるような、持続可能な組織設計について掘り下げます。
技術でも人でもない、“仕組み”によってイノベーションを循環させる方法をご紹介します。


第1回:イノベーションが停滞する組織の共通課題とは?
第2回:コードだけじゃない、業務設計のリファクタリングとは?

第3回:なぜ部門間の対立は起こるのか?~構造的背景を探る

合同会社タッチコア 代表 小西一有