電子計算機の登場と経理処理
1970年前後、日本企業がこぞって高価な電子計算機を導入しました。その目的は、ほぼ例外なく「経理処理」でした。大量の伝票を処理し、決算を早めることこそが投資の理由とされたのです。
この時代、大企業では「キーパンチャー」と呼ばれる入力専任者が雇用され、紙の伝票を電子計算機にひたすら打ち込む作業が日常でした。つまり、情報システムの起点が「伝票入力=会計処理」だったのです。
経理部EDP室の誕生
高額な電子計算機と運用費用を負担したのは、経理部門でした。そのため、システム運用を担う部署は「経理部EDP室(Electronic Data Processing室)」と呼ばれるのが一般的でした。
EDP室こそが現在の情報システム部の前身であり、実はつい最近まで「EDP室」という名前を使っていた企業も存在します。つまり日本企業における情報システムのルーツは、会計処理を中心とした経理部門にあったのです。
「会計=システム」の文化が定着
こうした経緯から、多くの企業では「システム=会計システム」と理解されるようになりました。基幹系システムの本来の役割は「企業活動のすべてを記録すること」なのに、日本では「決算処理や経理の効率化」がシステムの代名詞になってしまったのです。
この文化は、経営層やベンダーの言葉遣いにも影響を与えました。「会計刷新=システム刷新」「決算早期化=基幹強化」といった誤ったメッセージが浸透し、基幹系の概念が矮小化されていきました。
ベンダー営業が拍車をかけた
ITベンダーにとっても、「会計刷新=システム刷新」という理解は都合が良いものでした。経営層に響きやすい「決算早期化」「IFRS対応」などの言葉を使えば、高額なパッケージ導入が進みやすかったからです。
結果として、基幹系の本質である「受注・出荷・在庫・人事給与といった活動の記録」よりも、「会計機能」がシステム投資の中心として語られ続けました。
本質を取り戻すために
基幹システムとは本来、「企業活動の事実を記録し続けること」であり、会計はその副産物に過ぎません。しかし日本企業では、「最初に経理処理で電子計算機を使った」という歴史的事実が誤解を生み、半世紀にわたり文化として固定化されてしまいました。
この誤解を正す第一歩は、「システムの原点が会計にあった」という歴史を正しく理解することです。歴史を知ればこそ、「基幹=会計」という発想がいかに狭いかが理解できるはずです。
まとめ
日本で「基幹システム=会計システム」という誤解が生まれたのは、1970年代に電子計算機が経理処理を目的に導入されたことに端を発します。経理部EDP室が情報システム部門の前身であったことも、この誤解を強固にしました。ベンダー営業もこれを利用し、会計刷新を基幹刷新と見せかける文化を作ってきました。
しかし本質は、基幹システム=企業活動を記録するシステム群です。歴史を踏まえたうえで誤解を解き、基幹系の本当の価値を再定義することが、これからのDXの土台になるのです。
【連載】基幹システムの正しい理解はビジネス成長を支える
第1回:基幹システムとは何かー会計システムという誤解
第2回:基幹系と情報系 ー入力して記録する世界と加工して情報にする世界
第3回:なぜ基幹システムは止めてはいけないのか-Mission Criticalの本質
合同会社タッチコア 小西一有