ERPを「会計システム」と誤解する日本企業
なぜ日本ではERPが「会計システム」だと思われがちなのでしょうか?理由はシンプルです。
• 会計が法制度に直結しているため、経営層にとって理解しやすい
• 「決算の迅速化」や「税務対応」など、目に見える効果が会計領域で出やすい
• ERP導入の第一フェーズで会計モジュールから始める事例が多い
これらの事情により、「ERP=会計」と短絡的に捉えられてしまったのです。
しかし、ERPの本質は 全社の業務を統合すること にあります。会計はあくまでERPの一部であり、ERPのゴールではありません。
「会計システム化」してしまうと何が起こるか?
ERPを会計中心に導入すると、次のような問題が生じます。
1. 全社最適が進まない
営業や生産、在庫管理は従来通りのやり方が残り、結局データは分断されたまま。
2. 投資効果が限定的
会計処理が便利になっても、サプライチェーンや顧客体験には影響せず、投資対効果は低い。
3. 「高価な会計システム」化
ERPを本来の規模で導入しているのに、使っているのは会計部分だけ。莫大なライセンス料や維持費が無駄になる。
つまり、ERPを会計システムだと誤解すると、バカ高い投資で低い効果しか得られないという最悪の結果を招くのです。
ITベンダーが仕掛ける「ERP=会計」の罠
さらに問題なのは、ITベンダー側もこの誤解を利用している点です。
• 「決算早期化」「IFRS対応」「内部統制対応」など、会計領域の課題をERP導入理由にすり替える
• 会計領域を入口にすることで契約を取りやすくし、その後の拡張を曖昧にしたまま導入を進める
• 結果として、企業はERPを「会計システムの高級版」としか使えず、ERPの本質的価値を享受できない
こうして「ERP=会計」という誤解は、ベンダーの営業戦略によって強化され、企業にとっては高額な失敗投資になりやすいのです。
ERPの本質は「会計の前工程」にある
本来、ERPの価値は会計処理そのものではなく、会計データを生み出す前工程を全社で標準化することにあります。
• 営業が受注を登録すれば、出荷・在庫・生産・会計に自動的に反映する
• 購買が発注を登録すれば、仕入・在庫・支払・会計が一貫してつながる
この仕組みによって、会計は「後から数字を合わせる作業」ではなく、「業務データが自動的に積み上がった結果」として成立するのです。
つまりERPは、会計システムを効率化するのではなく、会計を“業務の副産物”にすることに価値があるのです。
誤解を解くために必要なこと
企業が「ERP=会計システム」という罠に陥らないためには、次の意識転換が不可欠です。
1. 会計はERPの一部にすぎないと理解する
ERPの真価は営業・生産・在庫・調達・人事まで含めた統合にある。
2. 業務モデリングから始める
「どの業務がどのデータを生み、どう会計に流れるか」をモデル化し、全社で共有する。
3. ベンダーの言葉を鵜呑みにしない
「会計システムを刷新すればDX」などという営業トークは誤り。企業側が主体的にERPの意味を理解することが不可欠。
まとめ
ERPを「会計システム」と誤解した瞬間、それは世界で最も高価な会計ソフトになってしまいます。
ERPの本質は、会計を含めた全社業務の統合と標準化にあり、そこから経営の透明性とスピードを生み出すことにあります。
ベンダーの甘言に惑わされず、ERPを「経営の仕組みを作り直す基盤」として理解すること。これが日本企業にとって、ERPを失敗投資にしないための最低条件なのです。
合同会社タッチコア 小西一有
【タッチコアの支援メニュー】
• ERP導入前の業務モデリング支援
• ERP導入プロジェクトのPMO/伴走支援
• ERPを活かしたDX戦略実装
第1回:ERPとは何か?ー単なるシステムではない経営基盤ERP
第2回:業務プロセスとERPー部門最適から全社最適へ
第3回:ERP導入の落とし穴 ― なぜ日本企業は失敗するのか
第4回:業務モデリングとは何かーERPを成功させるための設計図
第5回:ERPの本質を活かすDXー戦略と業務をつなぐ未来