経営者が正しい情報を理解していながら行動に移せない理由は、必ずしも個人の心理だけではありません。
大きな影響を与えるのは「組織の空気」と「経営者自身の孤独」です。
「組織の空気」に逆らう難しさ
日本企業に根強いのは、「和を乱さない」という文化です。会議で誰かが新しい方向性を示しても、最初に沈黙が流れ、その後に「それはちょっと難しいのでは」「前例がない」といった反対意見が積み重なります。
こうした同調圧力は、経営者であっても強く作用します。トップダウンで決められるはずのことでも、「社員の納得が得られないと進められない」と考えてしまうのです。
その背景には「社員を守りたい」という善意もあれば、「組織の抵抗を受けて自分の地位が揺らぐのを避けたい」という打算もあります。いずれにしても、正しい情報を前にしても行動が止まる理由になります。
「株主」や「取引先」という外部圧力
組織の同調圧力は社内だけに限りません。株主や取引先、業界団体など、外部の利害関係者も「大きなリスクを取ること」に警戒します。
経営者は正しい情報を元に大胆な変革を考えていても、こうした外部の声を意識するあまり、行動を抑制してしまうのです。とくに上場企業では株主への説明責任が強く、挑戦的な施策よりも「安全策」が優先されやすい傾向があります。
経営者の孤独
さらに深刻なのは、経営者の「孤独」です。
正しい情報を得て、「この方向に進むべきだ」と確信しても、その思いを共有できる相手が少ないのです。
経営幹部が本音を言わない、外部コンサルは“耳あたりの良い提案”しか持ってこない。そんな状況では、経営者は「自分だけが正しいと思っているのではないか」と不安になり、決断を先送りにしてしまいます。
孤独が続けば続くほど、自信は揺らぎ、正しい情報があっても行動に踏み切れなくなります。
孤独を乗り越えるために必要なこと
行動できる経営者は、この孤独を自覚し、それを埋める仕組みを持っています。
・信頼できる参謀や外部アドバイザーを置く
・社外の経営者ネットワークで議論する
・社員の声を直接拾い上げる場を設ける
こうした取り組みは、単なる情報収集ではなく「孤独を和らげるための心理的安全網」として機能します。孤独を克服できる経営者ほど、正しい情報を「行動」に変えることができるのです。
「空気を読む」から「空気をつくる」へ
最後に重要なのは、同調圧力を恐れて従うのではなく、「空気をつくる」側に立つことです。経営者は、組織の未来像を示し、そのビジョンに共感を集めることで、同調圧力を「推進力」に変えることができます。
正しい情報を持っているだけでは行動につながりません。孤独と同調圧力を乗り越え、「空気を変えるリーダーシップ」が求められているのです。
まとめ
経営者が正しい情報を前にしても行動できない理由の一つは、社内外の同調圧力と、自らの孤独です。
次回はいよいよ最終回として、「行動に移せる経営者の思考習慣」について考察します。
合同会社タッチコア 小西一有
第1回:なぜ「正しい情報」があっても動けないのか
第2回:過去の成功体験という“呪縛”
第3回:リスク回避と責任回避の心理構造