TouchCore Blog | 第6回おまけ:DXを阻む最大のバイアスー「既存組織」を超えて業務を設計する
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第6回おまけ:DXを阻む最大のバイアスー「既存組織」を超えて業務を設計する

これまでの連載では、DX推進における戦略、誤解、業務モデリング、人材と組織、EAの4層(BA・DA・AA・TA)を貫通させる重要性を見てきました。業務モデリングを通じて「自社の仕事の仕方に関する基本ルール」が整備され、そこからデータアーキテクチャ、アプリケーションアーキテクチャが定義されていく―ここまでがDXの正しい流れです。

しかし、ここであえて問いかけたいのです。
第5回までに、実は一度も触れていないコトがあると気づかれた方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?

その答えは―「既存組織」 です。

「業務改革」であって「組織改革」ではない?

多くの企業で耳にするのが、

「業務改革をするのであって、組織改革をするのではない」

という言葉です。しかし、これは大きな誤解です。

なぜなら、業務プロセスを再設計すれば、必然的に「組織のあり方も問い直される」からです。プロセスに沿って役割分担を定めれば、従来の「部」や「課」という組織単位がそのままフィットする保証はどこにもありません。

組織に縛られてモデリングが進まない

実際のプロジェクト現場でよくあるのが次のような会話です。

・「このプロセスだと○○部が要らなくなるのでは?」

・「□□課が反発するに違いない」

・「上層部がこの変更を受け入れられるだろうか」

こうした声が出た瞬間、改革の手が止まってしまいます。つまり、既存組織を前提に考えることで、大胆なモデリングができなくなる のです。

結果として「現状の組織を守るための業務設計」になり、戦略に基づく理想的なプロセスからは大きく乖離してしまいます。これではDXの本質である「変革」とはほど遠いでしょう。

業務モデリングの真の効用

業務モデリングの最大の価値は、「既存組織という呪縛から解き放たれること」にあります。

モデル上では、「部門」や「課」といった枠組みは存在しません。そこにあるのは、戦略を実現するために必要な業務の流れと役割だけです。組織図を前提にせず、ゼロベースで業務を設計することで、初めて本当に効率的で合理的なプロセスを描けるのです。

そして、モデルを基準にして組織を再編するなら筋が通りますが、逆に「既存組織に合わせてモデルをいじる」のは本末転倒です。

「組織を守る」から「価値を生む」へ

ここで強調したいのは、組織は目的ではなく手段 だということです。

・会社は「部」を守るために存在しているわけではありません。

・「課」を存続させるために業務を設計するのでもありません。

・企業の目的は「顧客に価値を届けること」であり、組織はそのための器にすぎないのです。

だからこそ、業務モデリングを行う際には、既存組織をいったん頭の中から消し去ってほしいのです。

まとめ:DXの本丸は「組織バイアス」からの解放

DXとは、戦略を業務とITに実装する取り組みです。その過程で必ず浮上するのが「既存組織」という最大のバイアスです。

私たちが何度もアドバイスするのは、

「既存組織を意識せずに業務モデリングせよ」

という一点です。

なぜなら、組織に囚われた設計は過去の延長線にすぎず、未来を切り拓く力にはならないからです。DXを真に成功させたいのであれば、組織という殻を一度取り払い、戦略から業務をゼロベースで再設計する覚悟が必要なのです。


 この「第6回・おまけ」こそ、全連載を通じて最も重要なポイントです。
中堅・中小企業がDXで未来を切り拓くために必要なのは、「組織に縛られない発想で業務を設計する勇気」なのです。

合同会社タッチコア 小西一有


第1回なぜ今、中堅・中小企業にDXが必要なのか

第2回:DXを誤解していませんか?―IT導入=DXではない

第3回:中堅・中小企業が取り組むべきDXの第一歩―業務モデリングで戦略を業務に落とし込む

第4回DX人材=開発力?─その思い込みが日本企業を苦しめています

第5回DXで未来を切り拓く中堅・中小企業―戦略を業務とITに貫通させる