
第3回では、SAP導入に慎重な人が、なぜ「反対意見」ではなく「敵(エナミー)」として扱われてしまうのかを整理しました。
今回は、そのもう一段深い話をしたいと思います。
そもそも、なぜ組織には「中立な立場」が存在しづらいのでしょうか。
なぜ、賛成か反対かの二択に収束してしまうのでしょうか。
■ 組織は「白か黒か」しか扱えない
多くの企業組織では、意思決定が進むにつれて、選択肢は急速に単純化されていきます。
• 賛成か、反対か
• 推進派か、慎重派か
• 味方か、敵か
本来は存在するはずの、
• 条件付き賛成
• 時期尚早
• 前提再確認
といった 中間的な立場 は、いつの間にか扱われなくなります。
なぜでしょうか。
組織にとって「中立」は、管理しづらい存在だからです。
■ 中立は「責任の所在」を曖昧にする
SAP導入のような大きな投資判断では、必ず「誰が決めたのか」が問われます。
• 誰が旗を振ったのか
• 誰がGOを出したのか
このとき、
「一度立ち止まって確認しよう」という中立的な立場は、意思決定のスピードを落とします。
それは同時に、責任の所在をぼかす存在にも見えてしまいます。
だから組織は、中立を許容するよりも、二項対立にしてしまった方が楽なのです。
■ 中立は「裏切り」に見える
さらに厄介なのは、中立がしばしば 裏切り と解釈される点です。
• 完全に賛成しない
• しかし、反対でもない
この立場は、推進派から見れば「腰が引けている人」に映ります。
結果として、あの人は、どちらの味方なのか分からない
信頼できないという評価につながったりします。
中立とは、本来は冷静な立場のはずなのに、です。
■ 安全装置は、物語を壊す
SAP導入はいつの間にか「改革の象徴」「正しい選択」という物語をまとい始めます。
この物語が共有された瞬間、中立な立場は危険になります。
なぜなら、中立は、
• 物語に熱狂しない
• 前提を問い直す
• 成功条件を冷静に確認する
つまり、物語を壊す役割を担ってしまうからです。
組織は、自分たちの物語を揺るがす存在を、本能的に遠ざけるものです。
■ その結果、何が起きるのか
中立な立場が消えた組織では、次のような現象が起きます。
• 業務構造の検証が省略される
• 「後で何とかする」が増える
• カスタマイズが前提になる
• 問題は導入後に噴出する
そして失敗すると、こう言われます。
「想定外だった」「現場が対応できなかった」
しかし本当は、想定しないということを選んだだけなのです。
■ 中立が存在しない組織は、学習できない
中立な立場とは、単なる慎重派ではありません。
• 仮説を疑う
• 前提を確認する
• 次の判断に知見を残す
これは、組織が学習するためのポジションです。
その立場が消えるということは、組織が同じ失敗を繰り返す構造に入るということでもあります。
このような構造の中で、「ITコンサル」という言葉はどんな役割を強いられてきたのでしょうか。
次回最終回では、
私はITコンサルではない―仕事の再定義―を通じて、
なぜ「入れる前の仕事」が今の日本企業に不可欠なのかを整理したいと思います。
合同会社タッチコア 小西一有
第1回(1/5):なぜ私は「ERP製品コンサルと同業だね」と言われて傷ついたのか
第2回(2/5):なぜお客さまの目には、まるっと「ITの人」に見えてしまうのか
第3回(3/5):なぜERP製品導入にブレーキをかける人は「敵」になってしまうのか