
今回は(File:66~68)、営業という仕事を探索、関係構築、取引という三つの活動に分け、その構造について考察してきました。
そして最終回として改めて問いたいのは、
なぜ営業は構造として設計されなければならないのかという点です。
営業は本来「人」によって成立する。
営業の現場において、しばしば語られる言葉があります。
「営業は人間性で成立する」これは決して誤りではありません。
むしろ、現場に身を置いた経験がある者ほど、この言葉の重みを実感するものです。
私自身、山一證券の営業時代に、顧客との関係が深まっていく過程を経験しました。特に、自ら開拓した顧客との関係は格別であり、単なる取引関係を超えた信頼が形成されていきます。
その意味において、営業は確かに「人」によって成立していると言えます。
しかし営業は「人」に依存してはならない
一方で、金融機関には明確な前提があります。
それは、一定期間ごとに人事異動が行われるということです。
特に営業職は、全国の部支店を異動することが前提となっています。
これは、顧客との関係において不正が生じることを防ぐための、コンプライアンス上の重要な仕組みです。
したがって、どれほど深い信頼関係を築いたとしても、いずれ担当者は交代することになります。
ここに、営業という仕事の本質的な課題があります。
すなわち、個々の営業担当者の人間性だけが取引の原動力になってはならないということです。
顧客との関係は、最終的には「個人」ではなく「組織」との関係として維持されなければならないのです。
これは、営業担当者の努力や能力を否定するものではありません。むしろその逆であり、優れた営業担当者が築いた関係を、組織として継承可能な形に昇華する必要があるということです。
属人化の限界
この問題は、営業に限ったものではありません。
私がコールセンター長を務めていた際にも、同様の課題に直面しました。
当時のコールセンターでは、一つの案件を一人のオペレーターが継続して対応するという構造が採られていました。
オペレーターの立場から見れば、顧客理解が深まり、応対品質を高めやすいという利点があります。
しかしセンター全体として見ると、この構造は極めて非効率でした。
特定のオペレーターに負荷が集中し、対応可能な件数には限界が生じます。
結果として、顧客を長時間待たせる、対応が滞る、最悪の場合、電話を取らないといった事態すら発生していました。
一人のオペレーターが20人以上の顧客を担当することは現実的ではなく、構造そのものに無理があったのです。
ここでも必要とされたのは、組織としての対応への転換でした。
そしてその時、私は強く感じました。
これは、証券営業と同じ構造問題であると。
営業とは構造の問題である
営業もコールセンターも、本質的には同じ問題を抱えています。
すなわち、属人化すれば品質は上がるが、持続性と効率が失われる。
組織化すれば効率は上がるが、個別対応の質が課題となる。
というトレードオフです。
しかし重要なのは、この問題を「どちらを取るか」という選択として捉えることではありません。
本来問うべきは、いかにして組織として高品質な対応を実現するかです。
そのためには、営業活動を個人の能力や努力に依存するものとしてではなく、構造として設計する対象として捉える必要があります。
構造設計としての営業
営業を構造として捉えるとは、どういうことでしょうか。
それは、
誰が探索を担うのか
誰が関係構築を担うのか
どのように顧客情報を共有するのか
どのように顧客関係を引き継ぐのか
といったことを、意図的に設計するということです。
これは単なる業務分担ではありません。
顧客との関係そのものを設計するということです。
営業とは本来、
市場の中から顧客を発見し、関係を築き、取引を生み出すプロセスです。
そしてそのプロセスは、個人の経験や勘に委ねるのではなく、組織として再現可能な形に設計されるべきものなのです。
まとめ
営業は確かに「人」によって成立します。
しかし同時に、人に依存してはならない仕事でもあります。
この一見矛盾する命題を解く鍵が、構造設計です。
優れた営業担当者の能力や関係性を出発点としながら、それを組織として持続可能な形に転換する。
それこそが、これからの営業に求められる姿ではないでしょうか。
営業とは、もはや属人的な技術ではありません。
それは、設計されるべき経営機能なのです。
合同会社タッチコア 小西一有
[関連Blog]
File:66 営業は根性なのか構造なのかー私が学んだ営業の本質
File:67 市場開拓とは何か― 営業の本当の仕事を考え
File:68 新規開拓は分業しないt回らないーインサイドセールスという営業の構造