
前回、情報教育が「作る側の論理」に偏ることで、「使って変える力」が育ちにくくなるという点を指摘しました。
では、その「使って変える力」を担う人材とは、具体的にどのような存在なのでしょうか。
ここでは、それを
「IT企画人材」
と呼びたいと思います。
IT企画人材という言葉は、決して新しいものではありません。
しかし、その実態は曖昧で、「SEの上位版」や「プロジェクトマネージャーの一種」として捉えられることも少なくありません。
ここに、ひとつ大きな誤解があります。
IT企画人材とは、「ITに詳しい人」ではありません。
もちろん、ITに関する理解は必要です。
しかし、それは本質ではありません。
本質はむしろ逆で、
「経営や業務を理解し、それをITで実現可能な形に構造化できる人」です。
もう少し具体的に言えば、IT企画人材の役割は大きく三つあります。
1. 何を変えるべきかを見極める
現場の業務は、多くの場合、長年の積み重ねによって複雑化しています。
その中で、
・どこがボトルネックなのか
・どこに非効率が潜んでいるのか
・どの業務が競争力に直結しているのか
を見極める必要があります。
これは単なる業務理解ではなく、経営視点を持った構造理解です。
2. 業務を再設計する
問題が見えたとしても、そのままシステム化すれば良いわけではありません。
むしろ重要なのは、
「そもそもこの業務のやり方は正しいのか?」
という問いです。
IT企画人材は、既存の業務を前提とせず、
あるべき姿から逆算して業務を再設計します。
3. ITで実現可能な形に落とし込む
そして最後に、それをITで実現できる形に落とし込みます。
ここで初めて、技術の理解が活きてきます。
重要なのは、
・何ができるかを知っていること
・どこまでが現実的かを判断できること
であって、自らコードを書くことではありません。
この3つの役割を通じて、IT企画人材は経営とITの間をつなぐ存在として機能します。
ここで改めて強調したいのは、
この能力はプログラミング教育の延長では身につかないという点です。
なぜなら、求められているのは
・正解のある問題を解く力ではなく
・問題そのものを定義する力
だからです。
プログラミングは、「与えられた仕様をどう実現するか」を考える活動です。
一方でIT企画は、
「そもそも何を実現すべきか」を考える活動です。
この違いは決定的です。
にもかかわらず、現在の情報教育では、この「上流の思考」がほとんど扱われていません。
結果として、
・作る力はあるが
・何を作るべきかが分からない
という人材が生まれてしまいます。
これは、個人の能力の問題ではありません。
教育の中で、そのような訓練が行われていないからです。
では、IT企画人材はどのようにして育成すべきなのでしょうか。
必要なのは、
・業務を構造的に捉える訓練
・仮説を立て、検証する思考プロセス
・経営と現場を往復しながら考える力
といった、従来の技術教育とは異なるアプローチです。
そして、この領域こそが、
本来、経営学部が最も得意とすべき分野のはずです。
経営学部に情報コースを設置する意義は、ここにあります。
単にIT人材を育てるのではなく、ITを使って企業を変える人材を育てること。
では、そのような教育は、実際にどのような形で設計されるべきなのでしょうか。
次回最終回では、
「経営学部に本当に必要な情報教育とは何か」
という観点から、具体的な方向性を提示したいと思います。
合同会社タッチコア 小西一有
[関連Blog]
第1回 経営学部の「情報コース」は誰のためのものか?
第2回 なぜズレたのか?—経営学とITの“不幸な分断”
第3回 なぜ情報教育は“作る側の論理”に偏るのか