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DX・IT:第6回(最終回)DX・AI投資は、本当に経営力向上になっているのか

「それは、私の担当ではありません」

DX・AIプロジェクトの会議では、よく似た光景が繰り返されます。

現場、管理職、DX推進部門、情報システム部門、ベンダー、そして経営者。それぞれが、自分の立場から正しいことを言います。

誰も責任逃れをしているわけではありません。それぞれが、自分の役割に忠実なだけです。

現場は「目の前の作業を楽にしたい」と考えます。

情報システム部門とベンダーは「予定どおり動かしたい」と考えます。

経営者は「早く投資効果を示してほしい」と考えます。

どれも間違いではありません。

ところが、すべてが実現しても、会社が強くなるとは限りません。

作業は楽になった。システムは動いた。投資効果も計算した。

それでも、顧客への価値提供も、判断の質も、組織の学習力も変わっていない。

そんなプロジェクトが生まれます。

会社は、以前できなかった何を、できるようになったのか。

この問いに答える人だけが、会議にいないのです。

全員が正しいまま、会社だけが間違う

現場は作業時間を減らします。部門長は自部門のKPIを守ります。

情報システム部門は安定稼働を優先します。ベンダーは契約どおり納品します。経営者は短期の利益を確かめます。

それぞれの範囲では合理的です。

しかし、部分最適の足し算は、全体最適にはなりません。

むしろ、各部門の正しさが互いを押し返し、会社全体の変化を止めることがあります。

顧客価値と無関係な業務を効率化し、不要な承認をワークフロー化し、分断されたデータをAIに読ませれば、古い経営の癖が最新技術で固定されます。

構造なきDXは、会社を変えるのではありません。

変われない会社を高速化するだけです。

「誰も間違っていない」は、安心材料ではなく、経営構造が壊れているという警告です。

「責任者」はいても、「設計者」がいない

多くの企業には、プロジェクトマネージャーがいます。DX推進責任者も、システム責任者も、業務責任者もいます。

会議体も、稟議も、報告ルートもあります。

しかし、どの顧客に、どの価値を届けるのか。そのために会社として何ができるようになるのか。どの業務が価値を生み、どの情報をつくり、誰が何を判断し、どこに責任を置き、IT・AIをどう実装するのか。

この連鎖を、一つの構造として設計する人は、驚くほど少ないのです。

プロジェクト責任者は、納期、予算、課題を管理します。調整役は、関係者の合意を取り付けます。

どちらも必要です。

しかし、管理と調整は、設計ではありません。

設計の空白を会議と根回しで埋めると、要件は現場要望の寄せ集めになり、経営の意思はスローガンのまま、最後はベンダーが「作れるもの」に収束します。

責任の所在が曖昧なのではありません。

能力設計の責任そのものが、定義されていないのです。

経営が所有し、ビジネスアーキテクトが設計する

会社として獲得すべき能力を決める責任は、経営にあります。

外部へ委ねることも、DX推進部門へ丸投げすることもできません。

ただし、経営者が一人で業務モデルや情報構造を描く必要はありません。

必要なのは、その設計を担う役割を明確に置くことです。

私は、この役割をビジネスアーキテクトと呼びます。

経営者の問題意識を業務構造へ翻訳し、現場の違和感を設計課題へ変え、業務、情報、判断、責任、組織、IT・AIを一つにつなぐ。現場の知を、個人技ではなく、会社として再現できる「設計知」に変える役割です。

そして、この役割には権限が要ります。

経営者の思いつきを、そのまま要件にしない。

現場要望を、そのまま機能にしない。

ベンダー提案を、そのまま稟議にしない。

問い直し、差し戻し、必要なら止める権限です。

「止められない設計者」は、設計者ではありません。

単なる調整役です。会社が間違ったものを、予定どおり作ることを防ぐ。

それは妨害ではなく、企業統治です。

「誰も間違っていない」を終わらせる

DX・AI投資の成否は、技術選定より前に決まります。

「この投資で何ができるようになるのか」「誰がその能力を設計するのか」

「その人に問い直す権限があるのか」。

この三つが曖昧なら、導入を急ぐべきではありません。

「みんなで考えます」は、聞こえのよい言葉です。

しかし、設計責任まで薄めれば、「誰も引き受けません」の丁寧な言い換えになります。

導入責任を置くだけでは、会社は変わりません。

会社の能力を設計する責任と権限を置いて、初めてDXは経営になります。

設計知経営とは、現場の知を、業務、情報、判断、責任、組織、IT・AIの構造に宿らせ、会社として再現可能な能力へ変える経営です。

AIを導入する前に、設計者を決めてください。

設計者がいないまま進めるDXは、投資ではありません。高価な成り行きです。

最終回の問いは一つです。


あなたの会社で、会社の能力を設計しているのは誰ですか。

答えが「みんな」なら、実際には誰もいないかもしれません。

合同会社タッチコア 小西一有

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