
第1回からここまで、SAP導入を巡る「誤解」と「構造」についてお話ししてきました。
• なぜ「同業」に見られてしまうのか
• なぜ、すべてが「ITの人」に見えるのか
• なぜ、慎重な人が敵になるのか
• なぜ、組織から中立が消えるのか
これらはすべて、個人の能力や性格の問題ではありません。
日本企業におけるIT導入の構造的な問題です。
その構造の中で、私は長らく「ITコンサル」と呼ばれてきました。
しかし、ここまで読んでいただいた方なら、もうお気づきだと思います。
私は、ITコンサルではありません。
■ ITコンサルという言葉が覆い隠してきたもの
一般に「ITコンサル」と言うと、
• システムに詳しい人
• 導入を支援する人
• ベンダーの上流工程をやる人
そんなイメージが先行します。
ですが、この言葉は決定的な違いを覆い隠しています。
それは、「 ITを入れることが前提の人」と「 ITを入れるかどうかを問う人」
この二者は、同じ括りにしてはいけません。
■ 私の仕事は「導入」ではない
私の仕事は、システムを選ぶことでも、要件を詰めることでもありません。
やっているのは、次の三つです。
・経営戦略や方針を、業務構造に落とす
・その業務構造が、ITで支えられるかを検証する
・IT投資として成立するかを判断できる状態を作る
その結果として、
• SAPを導入する
• 時期を見送る
• 別の手段を選ぶ
があるのです。
どの結論になっても構いません。
結論を出すことが仕事ではありません。
結論を間違えない状態を作ることが仕事です。
■ 「入れる前の仕事」は、なぜ軽視されるのか
この仕事が正しく評価されない理由は明白です。
• 成果が「見えない」
• 成功すると「何も起きない」
• 失敗を未然に防ぐから「語られない」
入れなかったSAP、作らなかったアドオン、起きなかったトラブル。
これらは、会議資料にも、成果報告にも残りません。
しかし現実には、IT導入の成否の8割は、入れる前に決まっています。
■ 私は「止める人」ではない
誤解してほしくありません。
私はIT導入を止めたいわけではありません。むしろ逆です。
• 入れるなら、きちんと入れてほしい
• 失敗する形で入れてほしくない
• 組織が疲弊する導入をしてほしくない
そのために、一度立ち止まり、前提を確認します。
これは反対ではありません。
責任ある判断のための前工程です。
■ なぜ、今この仕事が必要なのか
DX、ERP刷新、基幹再構築。
IT導入は、もはや避けて通れません。
だからこそ、「入れること」自体が目的化してはいけません。
必要なのは、
• 業務を設計する視点
• 中立的に前提を確認する立場
• 成功条件を言語化する役割
私は、その立場を引き受けています。
それを便宜的にでも「ITコンサル」と呼んでしまうと、この仕事の本質は永遠に伝わりません。
■ 再定義
最後に、改めて定義しておきたいと思います。
しつこいようですが、私はITコンサルではありません。
業務と意思決定の構造を設計し、IT投資が成立するかどうかを導入前に見極める仕事をしています。
この仕事が正しく理解されることは、企業が同じ失敗を繰り返さないための、小さな一歩になると信じています。
最後に
この5回連載は、SAPの話であり、ITの話であり、同時に 組織の意思決定の話 でもありました。
もし、「自分たちの会社にも、思い当たる節がある」そう感じていただいたなら、
この連載の目的達成です。
合同会社タッチコア 小西一有
第1回(1/5):なぜ私は「ERP製品コンサルと同業だね」と言われて傷ついたのか
第2回(2/5):なぜお客さまの目には、まるっと「ITの人」に見えてしまうのか
第3回(3/5):なぜERP製品導入にブレーキをかける人は「敵」になってしまうのか
第4回(4/5):なぜ組織から「中立な立場」は消えていくのか