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ガバナンス:第2回 中小・中堅企業が最初に手を付けるべきガバナンス―まずは「誰が決めるのか」を明らかにする

前回(第1回)では、ガバナンスとは「会社を縛るための管理」ではなく、企業内で発生する諸問題に対して、誰が要求を明示し、誰が意思決定するのかを明らかにすることであるとお話ししました。

つまり、説明責任の所在と意思決定の所在を明確にすることが、ガバナンスの出発点だということです。

では、中小・中堅企業が実際にガバナンスを整えようとする場合、何から手を付けるべきなのでしょうか。

多くの会社では、この問いに対して「規程を整備すること」「業務マニュアルを作ること」「稟議ルールを厳格にすること」といった答えが返ってきます。もちろん、それらが不要だと言うつもりはありません。しかし、順番としては違います。最初に整えるべきものは、規程でも文書でもありません。
最初に整えるべきなのは、意思決定の所在です。
言い換えれば、何を誰が決めるのかを明らかにすることです。

中小・中堅企業で起きる問題のかなりの部分は、この意思決定の所在が曖昧であることから生まれています。

例えば、新しい営業施策を始めたい。新しいシステムを導入したい。価格の見直しをしたい。

採用方針を変更したい。取引条件を変えたい。

こうした場面で、本来であれば「このレベルの意思決定は誰が行うのか」が明確でなければなりません。

ところが現実には、多くの企業でそれが明文化されておらず、慣習や空気や力関係によって運用されています。

その結果、現場では次のようなことが起きます。

ある案件について部門長が「進めてよい」と言ったので着手したところ、後になって社長から「そんな話は聞いていない」と止められる。逆に、社長が会議の場で何気なく触れたことを、現場が「社長決裁が出た」と理解して動き始める。

しかし、他部門は正式決定と受け止めておらず、協力が得られない。

あるいは、会議の場で議論はされたものの、審議だったのか、承認だったのか、単なる意見交換だったのかが曖昧なまま話だけが先に進んでしまう。

このような混乱は、往々にして「コミュニケーション不足」と片付けられます。ですが、実際にはもっと構造的な問題です。
それは、意思決定権限が設計されていないという問題です。

組織が小さいうちは、経営者の頭の中にある暗黙のルールで何とか回ります。

誰がどこまで決めてよいかも、長く一緒に働いているメンバー同士なら、空気で何となく共有できます。

しかし、企業が成長するにつれて、その曖昧さは急速に限界を迎えます。

人が増え、拠点が増え、部署が増え、案件の種類が増えると、「何となく分かっているだろう」は通用しなくなります。

それでも、多くの中小・中堅企業では、意思決定の所在を整理しないまま経営が続けられます。

その典型が、何でも最終的には社長が決める会社です。

一見すると、これは強い経営のように見えます。

確かに創業初期や小規模段階では、トップがほぼすべての重要事項を判断するほうが早く、合理的な場合もあります。

しかし、事業が成長してもその構造を変えないままでいると、やがて深刻な問題が起きます。

第一に、社長に判断が集中しすぎて、経営のボトルネックになります。
第二に、現場が自律的に考えなくなります。どうせ最後は社長が決めるのだから、自分で論点を整理しようとしなくなる。
第三に、社長の発言の重みが過剰になり、検討途中のコメントと正式決定の区別がつかなくなります。
第四に、社長本人が不在になったとき、組織が止まります。

つまり、「社長が強い」のではなく、社長しか決められない会社になってしまうのです。

これは、経営力の強さではなく、ガバナンス未整備の表れです。

では、どうすればよいのでしょうか。
必要なのは、立派な制度を一気に作ることではありません。

まずは、会社の中で繰り返し発生する主要な意思決定について、どのレベルの事項を、誰が決めるのかを整理することです。

例えば、経営に関わる重要事項は社長または経営会議が決める。

部門横断の課題は担当役員や委員会が審議したうえで決める。

部門内の運用改善は部門長が決める。日常的な業務上の判断は現場責任者が決める。

こうした区分が見えるだけでも、組織の混乱はかなり減ります。

重要なのは、「権限移譲をすること」そのものではありません。
重要なのは、意思決定の階層と境界を明確にすることです。

経営が決めるべきことまで現場に任せれば事故が起きますし、現場で決めてよいことまで経営に上げれば組織が遅くなります。

したがって、求められるのは、権限の放任でも集中でもなく、適切な配置です。

この点で注意しなければならないのは、稟議書や申請書の有無だけで安心しないことです。

書類があるからといって、意思決定の所在が明確とは限りません。

むしろ、形式だけ整っていても、「この案件は結局誰が承認したのか」「この会議は決議機関なのか諮問機関なのか」が曖昧な会社は珍しくありません。

ガバナンスとして重要なのは、紙の存在ではなく、意思決定構造が明瞭であることです。

また、中小・中堅企業では、会議体の役割が曖昧なことも多く見られます。

経営会議、部門長会議、プロジェクト会議、委員会など、名称だけは存在していても、それぞれが「議論する場」なのか、「要求を整理する場」なのか、「意思決定する場」なのかが分かれていない。

そのため、ある会議では承認されたつもりでも、別の場では「いや、それはまだ決まっていない」と言われる。

こうした無駄な往復が組織の疲弊を招きます。

意思決定の所在を明らかにするとは、単に「決裁者の名前を書く」ということではありません。

それは、会社の中に存在する会議体や部門や役職が、それぞれどのような性格の判断を担うのかを整理し、共通認識にすることです。
この整理ができると、要求を上げる側も何をどこまで整理すればよいかが分かりますし、判断する側も、どの観点から意思決定すべきかが明確になります。

ガバナンスを整えるというと、何か大がかりな改革のように思われるかもしれません。

しかし、中小・中堅企業にとって最初に必要なのは、もっと素朴で本質的な問いです。

「この会社では、何を誰が決めるのか。」

この問いに答えられない会社では、規程を増やしても、会議を増やしても、問題は減りません。

むしろ、曖昧なまま運用負荷だけが増えます。

逆に、この問いに明確に答えられるようになれば、まだ制度が不十分でも、組織の判断はかなり安定します。

中小・中堅企業におけるガバナンスの第一歩は、立派な内部統制報告書を作ることではありません。
それは、社長の頭の中にしかない判断ルールを、組織の共通ルールへと変えることです。
「この規模の投資は誰が決めるのか」
「この種の制度変更はどこで決めるのか」
「この案件は審議事項なのか、承認事項なのか」

こうした基本的な線引きを言語化することが、実効性あるガバナンスの出発点になります。

そして、この意思決定権限が明らかになると、次に必要になるのが、「その意思決定者に対して、誰がどのように要求を上げるのか」という説明責任の整理です。

次回は、この説明責任について、一般的な「事後の釈明」という理解ではなく、意思決定者に対して要求を明示し、判断可能な状態にする責任という観点から考えてみたいと思います

合同会社タッチコア 小西一有

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