
中小・中堅企業の経営者とお話ししていると、よく耳にする悩みがあります。
「案件が前に進まない」「社長のところに話が集まりすぎる」「部門間で話が食い違う」「幹部がなかなか育たない」。一見すると別々の問題に見えますが、その奥には共通した原因が潜んでいることが少なくありません。
それは、経営の意思を組織に通すための構造が設計されていないことです。
多くの中小・中堅企業には、もちろん「決裁」はあります。
ですが、その実態をよく見ると、制度として整っているというより、社長や一部幹部の経験、勘、あるいは暗黙の了解で動いている場合が少なくありません。
誰がどこまで判断するのか、誰が事前に確認するのか、どこで論点整理をするのかが曖昧なまま運用されているのです。
その結果、案件が上がるたびに関係者の解釈がずれます。
ある部門は「もう話は通っている」と思っている。
別の部門は「そんな話は聞いていない」と言う。
社長は「なぜこの段階まで未整理のまま上がってくるのか」と感じる。
こうして、案件が止まり、調整が増え、意思決定が遅くなります。
これは、現場の能力が低いから起きるのではありません。
また、幹部候補の資質が足りないからだけでもありません。
問題の本質は、意思決定の交通整理をする役割が存在しないことにあります。
そこで必要になるのが、私は『決裁事務局』だと考えています。
「事務局」と聞くと、単なる書類の受付窓口や、稟議書を回すだけの事務処理機能を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、本来の決裁事務局はそんな軽い存在ではありません。
決裁事務局とは、経営の意思を組織の中で正しく流すための中枢機能です。
案件をただ受け取って回すだけではなく、論点が整理されているか、関係部門との調整が必要か、誰に事前回覧すべきか、決裁者が判断できる状態になっているかを見極める。
場合によっては、「このままでは決められない」と判断して差し戻す。
つまり、決裁事務局は、案件を“決められる状態”に整える役割を担うのです。
中小・中堅企業では、この機能がないために、社長がその役割まで引き受けてしまっていることが少なくありません。社長が案件の中身を読み、背景を聞き、関係者の調整不足を見抜き、論点を整理し直し、ようやく判断する。これでは社長に負荷が集中するのは当然です。しかも、そのやり方では、社長以外に全体を見渡せる人材が育ちません。
ここに、決裁事務局のもう一つの重要な意味があります。
それは、次世代の右腕候補を育てる場になるということです。
決裁事務局の責任者、あるいは中核を担う人は、社内のありとあらゆる案件に触れます。
各部門が何に困っているのか、どこで案件が止まりやすいのか、誰がどの論点を重視しているのか、経営として何を優先しなければならないのか。
こうしたことを、個別部門の立場ではなく、全社の視点で学ぶことができます。
これは非常に大きいことです。
なぜなら、多くの中小・中堅企業で不足しているのは、単に優秀な実務家ではなく、全社最適で物事を考えられる人材だからです。
営業は営業のことをよく知っている。
製造は製造のことをよく知っている。
経理は経理のことをよく知っている。
しかし、会社全体を見て、どこに問題があり、何を優先し、どう調整すべきかを考えられる人は意外に少ない。
決裁事務局は、その力を鍛える実践の場になります。
特にオーナー社長の会社では、社長の頭の中にある判断基準や優先順位が、なかなか組織の中に移植されません。
社長が優秀であればあるほど、その傾向は強くなります。
しかし、会社を次の段階へ進めるには、社長一人の力量に依存し続けるわけにはいきません。
経営の意思を構造として組織に流し、その流れの中で幹部候補を育てていく必要があります。
決裁事務局とは、そのための仕組みです。
もちろん、最初から大掛かりな組織をつくる必要はありません。
中小・中堅企業であれば、まずは小さく始めればよいのです。
重要案件について、誰が論点整理を担うのか、誰が事前回覧先を見極めるのか、どの段階で差し戻しを行うのか。
そうした基本を定めるだけでも、意思決定の質は大きく変わります。
決裁事務局は、書類を増やすための仕組みではありません。
経営の意思を組織に通し、案件の停滞を減らし、部門間調整を前に進め、そして次世代の右腕を育てるための仕組みです。
中小・中堅企業こそ、この仕組みを持つべきだと私は考えています。
決裁の遅れ、部門間調整の停滞、社長判断への集中、
幹部候補の不在―こうした問題は、個人の力量不足ではなく、意思決定の構造が未設計であることから生じている場合があります。
中小・中堅企業における決裁プロセスの見直しや、決裁事務局機能の設計・運用にご関心があれば、ご相談ください。
合同会社タッチコア 小西一有