
ここまで4回にわたり、経営学部における情報教育の現状と課題について考えてきました。
情報コースが“SE養成”に見えてしまう現実
・経営とITの分断という構造的問題
・教育が「作る側の論理」に偏る理由
・本来必要とされるIT企画人材の姿
最終回となる今回は、これらを踏まえて、
経営学部における情報教育はどうあるべきかを考えます。
まず、前提として押さえておきたいのは、
技術教育そのものを否定するものではないという点です。
プログラミングやシステムの基礎理解は、現代のビジネスパーソンにとって重要な素養です。
問題は、それが教育の中心になってしまっていることです。
経営学部における情報教育の中心に据えるべきは、
「ITを使って企業や業務をどう変えるか」という問いです。
そのためには、従来とは異なる教育設計が求められます。
例えば、次のようなアプローチです。
●業務を構造的に捉える訓練
単に業務フローを理解するのではなく、
なぜその業務が存在するのか
どこに価値があり、どこに無駄があるのか
を分解し、再構成する力を養う。
●経営戦略と業務を接続する思考
戦略は抽象的で、現場は具体的です。
この間をつなぐには、
戦略を業務レベルにブレークダウンし
実行可能な形に落とし込む
という思考プロセスが不可欠です。
●ITを“手段として使いこなす”理解
重要なのは、「何ができるか」を知ることです。
どの技術がどの課題に適しているのか
どこまでが現実的なのか
を判断できるレベルの理解があれば、必ずしも自ら実装する必要はありません。
●正解のない問いに向き合う訓練
最も重要なのはここかもしれません。
・何が問題なのか
・どこから手をつけるべきか
・どうすれば変革が実現できるのか
こうした問いには、決まった答えがありません。
だからこそ、仮説を立て、検証し、修正するというプロセスそのものを学ぶ必要があります。
これらは従来の「技術教育」とは大きく異なるアプローチです。
しかし、考えてみれば、
これはまさに経営学が本来扱ってきた領域でもあります。
経営学部に情報コースを設ける意義は、技術を教えることではなく、
経営とITを統合的に捉え、実行できる人材を育てることにあります。
ここで、もう一つ重要な視点があります。
それは、この問題が単なる教育の話にとどまらないという点です。
現在、多くの企業で「DX人材が不足している」と言われています。
しかし実際には、
・技術者はいる
・外部ベンダーもいる
それでも変革が進まない。
その背景には、経営とITを結びつける人材の不在があります。
この構造は、そのままCIO(Chief Information Officer)の不在・機能不全にもつながります。
本来CIOは、ITを単なるコストではなく、経営戦略の実行手段として位置づけ、企業全体を変革していく役割を担う存在です。
しかし、その前提となる人材層が育っていなければ、CIOは育ちません。
あるいは、名ばかりの役職になってしまいます。
つまり、経営学部における情報教育の問題は、
・企業のDXの成否
・そして日本企業全体の競争力
にも直結するテーマなのです。
では、これをどう変えていくのか。
その答えは決して簡単ではありません。
しかし少なくとも、
・ITを“専門家に任せるもの”と捉えるのではなく
・経営の中核として扱い
・それを担う人材を意図的に育てる
という方向に舵を切る必要があります。
経営学部は、その出発点になり得る存在です。
もしここで教育のあり方を変えることができれば、
企業の中でITと経営をつなぐ人材が育ち始めるでしょう。
本連載では、経営学部における情報教育の課題について、あえて少し踏み込んだ形で問題提起を行ってきました。
これは決して特定の大学や教育者を批判するものではなく、構造的な課題に対する問いかけです。
「ITを作る人材」ではなく、
「ITで企業を変える人材」をどう育てるのか。
この問いに向き合うことが、これからの教育に求められているのではないでしょうか。
合同会社タッチコア 小西一有
[関連Blog]
第1回 経営学部の「情報コース」は誰のためのものか?
第2回 なぜズレたのか?—経営学とITの“不幸な分断”
第3回 なぜ情報教育は“作る側の論理”に偏るのか
第4回 プログラミング教育では育たない「IT企画人材」とは