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経営・戦略:第5回 何ができるようになったのか

日本企業の強さは、長いあいだ「現場」に支えられてきました。

お客様の微妙な反応に気づく営業担当者。

設備の小さな異音から異常を察知する製造現場のベテラン。

マニュアルには書かれていない事情を踏まえて、部門間の調整を進める管理職。

システムには入力されていない背景を読み取り、何とか業務を回す担当者。


こうした現場の知は、日本企業にとって間違いなく大きな力でした。

私は、暗黙知を否定したいわけではありません。

むしろ、日本企業はこの暗黙知によって、多くの困難を乗り越えてきたのだと思います。

しかし、問題はそこから先です。

その知は、会社の力になっているでしょうか。

それとも、特定の個人や現場に閉じ込められたままでしょうか。

ベテランがいる間は仕事が回る。

あの人に聞けば何とかなる。

この部署は、長年の勘どころで調整している。

トラブルが起きても、現場が何とか吸収してくれる。

一見すると、これは頼もしい姿です。

しかし、別の見方をすれば、会社の構造が個人に依存しているということでもあります。

その人が異動したらどうなるのか。

退職したらどうなるのか。

業務量が増えたらどうなるのか。

AIに任せようとしたとき、その知はデータや判断構造として取り出せるのか。

ここで、多くの企業が壁にぶつかります。

現場には知がある。

しかし、その知が会社の構造に実装されていない。

だから、同じような問題が繰り返されます。

似たようなトラブルが、別の部署でまた起きます。

優秀な人ほど忙しくなり、属人的な調整に追われます。

経営に必要な情報は、必要になってから慌てて集められます。


これでは、DXやAIを導入しても、会社の動き方は深いところでは変わりません。

本当に必要なのは、現場の知を奪うことではありません。

現場の知を、会社の力に変えることです。

そのためには、現場で何が起きているのかを、単なる作業手順として見るだけでは足りません。

どの顧客価値を生み出しているのか。

どの状態を、どの状態へ変えているのか。

どの情報が、どの判断に使われているのか。

どの判断が、誰の責任で行われているのか。

どの知が、個人の経験に閉じたままになっているのか。

これらを問い直す必要があります。

私は、この転換を「暗黙知経営から、設計知経営へ」と呼んでいます。

暗黙知経営とは、個人や現場に宿る経験、勘、調整力に大きく依存して会社を動かす経営です。

設計知経営とは、その知を、業務、情報、判断、責任、組織、IT/AIの構造の中に組み込み、会社として再現可能な能力へ変える経営です。

これは、現場を縛ることではありません。

現場の柔軟性を奪うことでもありません。

むしろ逆です。

現場の知が構造に実装されれば、優秀な人だけが抱え込まなくてもよくなります。

新しい人も学びやすくなります。

経営は現場の違和感を早く把握できます。

AIやシステムも、意味のある情報を扱えるようになります。

会社は、同じ失敗を繰り返すのではなく、学習できるようになります。

現場の知は、個人の頭の中にあるだけでは、会社の能力にはなりません。

会社の能力になるのは、その知が業務の流れに組み込まれ、情報として生まれ、判断に使われ、次の行動に戻っていくときです。

DXやAIの本当の価値も、ここにあります。

ツールを入れることではありません。

現場の知を、会社の力に変えることです。

だから、経営者が問うべきことは一つです。

わが社の現場の知は、人に宿っているだけでしょうか。

それとも、会社の構造に実装されているでしょうか。

合同会社タッチコア 小西一有

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