TouchCore Blog | 経営・戦略:第6回 何ができるようになったのか
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経営・戦略:第6回 何ができるようになったのか

日本企業は、長いあいだ暗黙知に支えられてきました。

現場の経験。

ベテランの勘。

部門間の調整力。

お客様の反応を読み取る感覚。

言葉にしなくても通じる前提。

会議の空気から判断する力。

こうしたものは、日本企業の強みでした。

私は、暗黙知そのものを否定したいわけではありません。

むしろ、暗黙知を軽視してきた企業は、現場の本当の力を見落としていると思います。

問題は、暗黙知があることではありません。

問題は、その暗黙知が個人や現場に閉じたまま、会社の構造に実装されていないことです。

たとえば、ある営業担当者は、お客様の言葉にならない不満を感じ取ることができる。

ある製造現場のベテランは、設備のわずかな変化から異常を察知できる。

ある管理職は、複数部門の事情を踏まえながら、何とか落としどころを見つけることができる。

それ自体は素晴らしい力です。

しかし、その力が特定の個人にしか宿っていないとしたら、会社の能力とは言い切れません。

その人がいなければ分からない。

その部署でなければ回らない。

長く勤めた人でなければ判断できない。

何が起きているのか、後から聞かなければ分からない。

これでは、会社は学習できません。

暗黙知経営とは、個人や現場の経験、勘、調整力に大きく依存して会社を動かす経営です。

それは、安定した環境では大きな強みになります。

似たようなお客様に、似たような商品を、似たようなプロセスで提供し続ける時代には、非常に有効でした。

しかし、環境が変わると話は変わります。

顧客の期待が変わる。

競争相手が変わる。

技術が変わる。

働き方が変わる。

AIのような新しい道具が入ってくる。

そのとき、個人の頭の中にある知だけに頼っていては、会社全体として変化することが難しくなります。

DXやAIを導入しても会社が変わらない理由は、ここにあります

ツールを入れても、業務の構造が変わっていない。

データを集めても、判断の構造が変わっていない。

AIを使っても、何を判断したいのかが設計されていない。

現場の違和感が、経営に届く構造になっていない。

つまり、会社が持っている知が、会社の能力として設計されていないのです。

ここで必要になるのが、設計知経営です。

設計知経営とは、個人や現場に宿る暗黙知を、業務、情報、判断、責任、組織、IT/AIの構造の中に組み込み、会社として再現可能な能力へ変える経営です。

これは、暗黙知をマニュアルに書き出せばよい、という話ではありません。

もちろん、マニュアル化できるものはマニュアル化すればよい。

しかし、それだけでは不十分です。

本当に問うべきなのは、もっと深いことです。

その知は、どの業務の中で生まれているのか。

その知は、どの情報として残るべきなのか。

その情報は、誰のどの判断に使われるのか。

その判断の責任は、どこにあるのか。

その結果は、次の業務や学習にどう戻るのか。

ここまで設計されて、初めて知は会社の力になります。

たとえば、現場の違和感がただの感想で終わる会社があります。

一方で、その違和感が記録され、分類され、顧客価値や業務上の問題として経営に届く会社もあります。

前者では、現場の知は個人の中に消えていきます。

後者では、現場の知が会社の学習材料になります。

この違いは大きい。

同じDXでも、同じAIでも、同じシステム投資でも、結果はまったく変わります。

暗黙知経営から設計知経営へ進むということは、現場の力を否定することではありません。

むしろ、現場の力を本当に大切にするということです。

大切な知だからこそ、個人の頭の中だけに閉じ込めてはいけない。

大切な知だからこそ、属人的な調整だけに任せてはいけない。

大切な知だからこそ、会社の構造に実装しなければならない。

DXやAIの本当の価値は、この転換を支えるところにあります。

導入したかどうかではありません。

何ができるようになったのかです。

現場の違和感を、経営が早くつかめるようになったのか。

顧客価値の変化を、業務の中で捉えられるようになったのか。

判断に必要な情報が、後から集めるものではなく、業務の中で自然に生まれるようになったのか。

人が替わっても、会社として学習し続けられるようになったのか。

ここを問わなければ、DXもAIも「導入しました」で終わってしまいます。

会社は、人の集まりです。

しかし、人の頑張りだけで動き続けるものではありません。

会社は、業務、情報、判断、責任、組織がつながった構造体でもあります。

その構造の中に、現場の知をどう実装するのか。

これが、暗黙知経営から設計知経営への転換です。


そして、経営者が問うべきことは、ここにあります。

わが社の知は、個人に宿っているだけでしょうか。

それとも、会社が変化するための構造として設計されているでしょうか。

合同会社タッチコア 小西一有

[関連Blog]

第1回 DXもAIも入れた。|何ができるようになったのか

第2回「導入しました」は経営成果ではありません|何ができるようになったのか

第3回 現場が強い会社ほど、構造の問題が見えなくなる|何ができるようになったのか

第4回 日本企業最大の無駄は、作業ではなく「調整」です|何ができるようになったのか

第5回 現場の知を、会社の力に変える|何ができるようになったのか