「企業活動の記録」とは何か
企業活動を記録するとは、日々の業務で発生する 取引(トランザクション) を正しく残すことです。受注、出荷、在庫の移動、購買、仕入、支払、人事異動、給与支給などがその代表例です。
これらはすべて「企業としての外部や内部への約束ごと」であり、後から必ず確認・参照される証跡です。逆に「トイレに行った」「社員同士で雑談した」など、企業活動の証跡にならないことは記録の対象外です。
つまり「記録すべき企業活動」とは、モデリングによって定義されたトランザクション に他なりません。
なぜモデリングが必要なのか
基幹システムを正しく設計・運用するためには、「何をトランザクションと見なすか」を企業全体で合意する必要があります。これがなければ、部門ごとにバラバラな理解で入力され、システム全体が破綻します。
モデリングとは、
•業務の流れを整理し、どこで何を記録するかを定義する
•用語やコード体系を統一する(顧客コード・商品コードなど)
•例外処理や承認ルールを明示する
といった作業です。これによって「基幹システムが何を記録すべきか」が客観的に定義され、全社で共有されるのです。
モデリングを軽視すると何が起きるか
日本企業の多くは「ベンダーに任せれば何とかなる」と考え、モデリングを自社で行う努力をしてきませんでした。その結果、
•部門独自の“やり方”に合わせたアドオンの氾濫
•データベースが原型を失い、保守不能に陥る
•経営が求める情報が得られない
という状況に陥ってきました。
基幹システムを導入しても成果が出ないのは、システムのせいではなく「記録の対象が定義されていない」ことが原因なのです。
モデリングを誰がやるのか
「モデリングなんて聞いたこともない」「ベンダーでも知らないのに、ユーザー企業がやるわけがない」と嘯く人もいます。しかし、これこそ大きな誤りです。
基幹システムは企業活動そのものを支える仕組みですから、その定義はベンダーではなく 企業自身が主体的に行うべき です。もちろんベンダーの知見を借りることはできますが、最終的に「何を記録するか」を決めるのは利用者側でなければなりません。
DX時代にこそ必要なモデリング
DXの基盤はデータ活用ですが、その前提は「正しい記録」です。正しく記録されていなければ、AIも分析も役に立ちません。モデリングによって「どのトランザクションを残すのか」を明確にすることが、基幹システムの設計であり、DXの第一歩なのです。
まとめ
「企業活動の記録」とは、無意味な日常行動を残すことではなく、モデリングで定義されたトランザクションを正しく記録することです。基幹システムを正しく設計・運用するためには、モデリングという作業を避けて通ることはできません。「知らない」「聞いたことがない」と言って済ませるのではなく、経営と現場が共に取り組むべき最重要課題なのです。
【連載】基幹システムの正しい理解はビジネス成長を支える
第1回:基幹システムとは何かー会計システムという誤解
第2回:基幹系と情報系 ー入力して記録する世界と加工して情報にする世界
第3回:なぜ基幹システムは止めてはいけないのか-Mission Criticalの本質
第4回:日本で基幹システムが会計に矮小化された歴史的背景
第5回:基幹システムとDXー記録基盤と情報基盤の融合
合同会社タッチコア 小西一有