
多くの企業で、同じ現象が起きています。
・経営戦略は語られている
・DX方針も掲げられている
・IT投資も行われている
それにもかかわらず、戦略が現場の行動に落ちていきません。
この原因を、
「現場が分かっていません」
「情シスが遅いです」
と片付けてはなりません。
問題は、戦略と記録をつなぐ組織が存在しないことにあります。
戦略は「実行」ではなく「記録」に落ちて初めて意味を持ちます
戦略とは、本来、「やりたいこと」ではありません。
どの活動を行い、どの活動を行わないかを決めることです。
しかし多くの企業では、戦略はスローガンとして語られ、現場では「いつも通りの業務」が続きます。
なぜでしょうか。
戦略が、日々の企業活動の中でどう記録されるのかが設計されていないからです。
記録されない戦略は、実行されていないのと同じです。
▶計画と記録を分断した組織構造
これまで見てきた通り、
日本企業では次のような分業が定着してきました。
・経営企画:戦略・計画を立てる
・情シス :システムを運用する
この構造の中で、「戦略を、どんな活動として記録するか」を考える組織は存在しませんでした。
結果として、
・計画は抽象的
・記録は会計中心
・両者はつながらない
という状態が生まれました。
▶ERP(企業資源計画)が本来担うべき役割
ERP(企業資源計画)を再定義すると、その本質は明確になります。
ERPとは、
戦略を、記録可能な企業活動に翻訳するための枠組みです。
・どの素活動を記録するのか
・それはどの戦略と対応しているのか
・記録された結果を、どう評価するのか
この翻訳ができて初めて、戦略は実行され、検証されます。
▶戦略と記録をつなぐ組織の役割
では、その翻訳を担うのは誰でしょうか。
答えは明確です。
経営企画でもなく、情シスでもなく、その間に位置する組織です。
この組織の役割は、次の三つに集約されます。
・経営戦略を、記録すべき活動に分解する
・素活動として、何を基幹で記録するかを定義する
・記録されたデータが、戦略検証に使える形になっているかを担保する
これは調整役ではありません。
設計責任を持つ組織です。
組織名は何でもよいですが、役割は曖昧にしてはいけません
この組織は、
「IT企画部」でも、
「ビジネスアーキテクト室」でも、
「DX設計部」でもよいでしょう。
重要なのは、名前ではありません。
・戦略と業務の両方に口を出せる
・記録設計に責任を持つ
・パッケージ選定より前に関与する
この権限と責任がなければ、どんな名称でも形骸化します。
▶なぜこの組織がないとDXは失敗するのか
この組織が存在しない企業では、DXは必ず次のどちらかに陥ります。
・現場改善の寄せ集め
・システム刷新プロジェクト
どちらも「点」であり、戦略とは結びつきません。
なぜなら、戦略が「記録」という形で業務に埋め込まれていないからです。
▶CIO/CDOとの関係
前回述べた通り、
・CIOは「記録の連続性」に責任を持つ
・CDOは「記録の意味づけ」に責任を持つ
戦略と記録をつなぐ組織は、CIO/CDOの下で機能する“設計中枢”になります。
ここがなければ、CIO/CDOは方針を出しても実装できません。
▶戦略が変われば、記録も変わる
重要な点を一つ述べます。
戦略は固定ではありません。環境が変われば、戦略も変わります。
ということは、記録すべき活動も変わるということです。
戦略と記録をつなぐ組織は、一度作って終わりではありません。
企業の意思決定に合わせて、記録設計を更新し続ける組織です。
▶ERP再定義論がたどり着く場所
ERP再定義論が示してきたのは、システム論ではありません。
戦略を、記録として実装できる企業だけが、変化に耐えられるという事実です。
そして、その鍵を握るのが戦略と記録をつなぐ組織設計です。
合同会社タッチコア 小西一有
第1回:基幹システムとは何か―ERPを再定義すると、情報システムの意味が変わる
第2回:情シスの役割再定義―「守る仕事」と「変える仕事」を取り違えない
第3回:情シスに必要な人材像の再定義―「ITが分かる人」ではもう足りません
第4回:IT企画人材不足の正体―「いない」のではなく「存在できなかった
第5回:経営企画と情シスの分断はなぜ起きたのか―「戦略」と「記録」を切り離した組織の末路
第6回:CIO/CDOは何をすべきか」―「ITを管轄する役員」では足りない