
ERPの議論は、長い間「ITの話」として扱われてきました。
・どのパッケージを選ぶのか
・どれだけ標準に合わせるか
・いくらで導入できるのか
しかし、今回の連載(ERP再定義論)でお話ししてきた通り、ERP(企業資源計画)とは、本来ITの話ではありません。経営の話です。
最終回では、あらためて、経営者が決めなければならないことは何か、を明確にしたいと思います。
▶ERP再定義論が問い続けてきたこと
本連載を通じて、一貫して問い続けてきたのは次の一点です。
企業は、何を企業活動と認め、それをどこまで記録し、何に責任を持つのか。
ERP再定義論とは、この問いをシステムではなく、経営判断として提示する試みでした。
▶ERPは「導入するもの」ではありません
多くの経営者は、ERPを「導入するもの」「刷新するもの」として捉えてきました。
ですが、ERP(企業資源計画)とは、本来「選ぶもの」ではありません。
定義するものです。
・どの活動を記録対象とするのか
・どの活動は企業として責任を持つのか
・どの活動は見ないことにするのか
これらは、ベンダーが決めることでも、情シスが決めることでもありません。
経営者が決めるべき事項です。
記録されない活動は、存在しないのと同じです
企業の中では、日々、無数の活動が行われています。
・モノが動き
・人が関与し
・情報が受け渡される
しかし、記録されない活動は、経営の視界から消えます。
意図的であれ、無自覚であれ、記録しないという選択は、責任を持たないという選択と等しいです。
ERP再定義論は、この事実から目を背けないでください、というメッセージでもあります。
▶技術的制約は、すでに存在しません
かつて、企業がすべての活動を記録できなかったのは事実です。
ホスト集中型の時代には、リアルタイムでの全量記録は不可能でした。
だから会計帳簿に載る活動だけが、企業活動の代表として扱われてきました。
しかし今は違います。
分散型コンピューティングとクラウド環境により、技術的には、ほぼ無制限に素活動を記録できる時代になりました。
にもかかわらず、「記録しない」選択を続けている企業が多いのです。
それは、技術の問題ではありません。
経営の意思の問題です。
▶基幹システムとは、何を意味するのか
ERPを再定義すると、基幹システムの意味も変わります。
基幹システムとは、企業の素活動をリアルタイムで記録し続ける仕組みです。
止められない理由は、システムが重要だからではありません。
止めた瞬間、企業は自らの活動を記録できなくなるからです。
この基幹が記録したデータを使って、意思決定や分析、業務支援を行います。
それが情報システムです。
この役割分離を設計できるかどうかは、経営の責任に直結します。
▶組織と人材は、後から必ずついてくる
ERP再定義論では、情シスの役割、人材像、経営企画との分断、CIO/CDOの責任についても論じてきました。
しかし忘れてはなりません。
組織や人材は、経営が決めた枠組みの結果として生まれます。
・戦略と記録をつなぐ組織がない
・IT企画人材が育たない
・情シスが保守屋になる
これらはすべて、経営が「何を記録するか」を決めなかった結果です。
▶ERP再定義論が経営者に突きつける問い
最後に、経営者に問いを投げかけたいと思います。
・あなたの会社では、日々行われている活動のうち、どこまでが記録されていますか。
・記録されていない活動について、「それでも構わない」と本当に言えますか。
・それは、経営としての意思決定ですか。それとも、惰性ですか。
ERP再定義論は、
「記録することから逃げない経営」への提言です。
▶終わりに
ERPを再定義するとは、新しいシステムを入れることではありません。
企業は何者であり、何に責任を持つ存在なのでしょうか。
それを、記録という形で定義し直すことです。
その覚悟を持った企業だけが、変化し続ける環境の中で、自らの意思で舵を切り続けることができます。
ERP(企業資源計画)を、いま一度、経営の言葉として取り戻してほしいと思います。
合同会社タッチコア 小西一有
第1回:基幹システムとは何か―ERPを再定義すると、情報システムの意味が変わる
第2回:情シスの役割再定義―「守る仕事」と「変える仕事」を取り違えない
第3回:情シスに必要な人材像の再定義―「ITが分かる人」ではもう足りません
第4回:IT企画人材不足の正体―「いない」のではなく「存在できなかった
第5回:経営企画と情シスの分断はなぜ起きたのか―「戦略」と「記録」を切り離した組織の末路
第6回:CIO/CDOは何をすべきか」―「ITを管轄する役員」では足りない
第7回:戦略と記録をつなぐ組織設計―DXが進まない企業に「欠けている組織」の正体